政府備蓄米放出の取り組みと小売業者の課題
米価格の高騰が止まらない状況を受け、5月下旬に農水大臣に就任するとすぐ、小泉進次郎氏は政府備蓄米の放出を決定した。6月初旬から5kg当たり2000円台で店頭に並ぶよう、随意契約の手続きを開始し、大型スーパー、外食業者、インターネット販売業者への早期供給を表明した。これは、各購入業者が個別にSCMを実施することを意味する。

備蓄米は米が大幅に足りなくなった場合に備え、法律に基づいて国が保管している米である。5年分が全国の倉庫に玄米の形で保管され、倉庫内は年間を通じて温度15度以下、湿度60~65%に管理されている。
これまで備蓄米の放出は、深刻な不作や大規模災害への対応に限られており、流通の円滑化を目的に、政府が備蓄米を放出するのは今年が初めてとなる。備蓄米の随意契約については、申し込みが殺到し、用意した20万トンに達する見込みで農水省は受付を休止した。
倉庫内の備蓄米は、1トンパックと30kg袋に詰められている。そのため、玄米のまま販売する場合でも、消費者向けに専用充填機で個装する作業が必要となる。しかし、真の課題は白米として販売する場合の精米工程にある。
参入した小売業者は、米の扱いに慣れていない企業も多い
アイリスオーヤマは自社精米工場を保有し、ファミリーマートは親会社の伊藤忠商事グループに精米関連企業があるため対応可能だ。しかし、今回参入した多くの企業は精米工場を持たない。
既存の精米工場も通常業務があるため、全ての依頼を受け付けることは物理的に困難である。
ここでSCMの手法が生きるのではないか。精米工場での24時間3交代制勤務体制の導入が考えられる。また、農林水産省は中小スーパーや街中の精米店への申請受付拡大を発表したが、これらの事業者には資金力や倉庫容量の制約がある。
筆者が提案したいのは、大手企業からの委託により「お米マイスター」を活用する方法である。お米マイスターは、一般財団法人日本米穀商連合会が主宰する資格で、米に関する専門職経験者のみが受験可能な、いわば「米の博士号」ともいえる専門資格だ。全国に約2700名が認定されている。
お米マイスターが在籍する精米店に作業部隊を投入し、専門家の指導の下で精米・パック詰め作業を実施する。そして、SCMによってその前後の工程を滞りなく流していくのだ。これにより、品質を保持しながら効率的な供給体制を構築できるはずだ。