しかしながら、米国側が中国側の封鎖を破ろうとすれば、台湾の東側に展開してくるであろう中国のKJ-500早期警戒管制機や052C/D駆逐艦(中国版イージス)、さらには大陸側から台湾海峡にかけて飛行禁止空域を設定しうる沿岸防空システムを無力化する必要がある。

 また、中国側の継戦意思を締め上げるために日米とその同盟国が東シナ海から南シナ海(場合によってはインド洋や南太平洋島嶼部を含む)の各チョークポイント(戦略的に重要な海上水路)で封鎖を行なう場合でも、その影響が中国の軍事活動にとどまらず、経済や市民生活に及んで共産党指導部の政治的安定性を揺るがすほど深刻になれば、(かつて対日石油全面禁輸措置を打破しようとした日本が真珠湾攻撃を決断したように)中国側に軍事的対抗手段を用いて封鎖をやめさせようとする強い誘因が働く可能性がある。

 このように、当初は直接的な武力衝突を伴わない威嚇を通じた危機であっても、米中間の緊張がすぐに高烈度の武力衝突にエスカレートしかねないリスクが存在する。

米中双方にとって
「負けられない戦い」

 これは米中双方が、台湾に対して容易に譲ることのできないほどの重要な利益を見出していることの裏返しと言える。

 中国側にとって台湾有事における敗北は、中国共産党の政治的正当性を揺るがす危機となる可能性が高く、戦争終結のあり方次第では、台湾の独立を容認する形にもなりかねない。

 一方、米国側にとっての台湾有事における敗北は、グローバルな米国主導の同盟の信頼性を揺るがし、日本や韓国を含むアジアにおける対米同盟の戦略的位置付けを根本的に損なうことになるだろう。

 中国による台湾統一は、台湾を中国の戦力投射基盤に変貌(へんぼう)させ、中東から北東アジアに至るシーレーンをいつでも脅かしうるようになるという点で、インド太平洋における中国の軍事的優位性を一層強固なものとするであろうし、台湾の高度な技術力・経済力を取り込むことで、経済的優位性をより強化することにもなろう。