要するに、台湾有事は米中双方にとって「負けられない戦い」であり、いずれの側もできることなら事態を直接の武力衝突に発展させることなく、相手に手を引かせることができればよいと考えている。

 だが、そうした期待も虚しくひとたび紛争が始まってしまった場合、その戦闘は互いの通常戦力が限界まで消耗することを辞さないような熾烈(しれつ)なものになることが予想される。そして紛争がエスカレーションの一途を辿るにつれ、双方の政治指導者には「これだけの犠牲を払ったのだから、負けるわけにはいかない」というサンクコストが脳裏をよぎり、勝利を確実にするため、あるいは決定的な敗北を回避するために、限定核使用に踏み切る余地が残る。

 さらに、武力による台湾統一は、封鎖やミサイル攻撃だけでなく、最終的には大規模な着上陸作戦の成功なくしては実現し得ないと考えられている。このように台湾有事には、(1)米中双方にとって譲れない利益をかけた「負けられない戦い」となる、(2)双方が通常戦力を大量に消耗する戦争になる可能性が高い(長期化の可能性もある)、(3)中国にとって最終的に大規模着上陸作戦を成功させる必要があるという特徴がある。