村野 ただ一概に能力と言っても、中国にとって必要な能力とセオリー・オブ・ビクトリー(勝利の方程式)は、彼らが想定しているシナリオによっても変わります。
そこで次に考えたいのは、台湾を巡る危機シナリオについてです。
たとえば、封鎖による強制、サイバー攻撃、電磁波攻撃、対宇宙攻撃などと各種ミサイルを組み合わせた奇襲、特殊作戦による台湾指導部への強襲、そして本格的な大規模着上陸など、さまざまなことが考えられますね。
村野 ベックリーさんは、2017年に『インターナショナル・セキュリティ』誌に書かれた論文で、これらの作戦は中国にとってどれも一筋縄ではいかないと指摘されました。
しかし、その後も中国の軍事力は伸び続けていますし、米国はアジアだけではなく、ウクライナや中東など多正面事態に本格的に対応せざるを得なくなり、リソースの制約がより深刻になっています。
このような情勢を踏まえて、何か評価は変わったでしょうか。そして、最も警戒すべきシナリオはどのようなものだとお考えでしょうか。
リスクがある着上陸作戦よりも
封鎖の可能性のほうが高いが……
ベックリー まず、防御側としては可能性の大小に関係なく、すべてのシナリオに備える必要があります。
そのうえで言えば、着上陸作戦よりも封鎖の可能性のほうが高いように思います。着上陸侵攻は人民解放軍にとって非常にリスクがある作戦であり、沖縄の米軍基地を攻撃して航空優勢を確保し、開戦初期の段階で米国を介入させないようにする必要もあるでしょう。その意味で、中国にとって封鎖による強制は、より簡単でリスクの少ないオプションに見える可能性はあります。
ただ一方で、着上陸侵攻が台湾を実際に支配することを確実にする、唯一の決定的な方法であることも事実です。歴史的に、封鎖だけで国家に主権を放棄させることができた事例を私は知りません。台湾人の意思が特段弱い可能性もあるかもしれませんが、私はそうは思いません。ですから、米国や台湾にとって優先すべきは、やはり着上陸侵攻への備えということになります。