ベックリー ピークを迎える国家というのは、その成長が止まっているわけでも、急速に衰退し始めているわけでもないが、伸び代の限界が見え始めている状態の国です。歴史的に見て、こうした大国は軍事力への投資を増やしたり侵略を行なおうとしたりする傾向が強い。私たちが危惧しているのは、中国もそうなるのではないかということです。

 また、経済的に停滞し始めても、軍事的にはまだ伸び続ける可能性もあります。私は、今後中国は経済的に米国に後れを取り始めると思っていますが、だからこそ非常に危険な時期にあるとも考えている。

習近平にとって台湾攻略は
絶対に失敗が許されない

ベックリー なぜなら、数十年にわたる急成長を経て、その能力と野心を膨れ上がらせており、すでに軍事力が強化されているからです。中国の国力と威信を高めるためには、いつまでも経済成長をあてにするべきではないという事情もあります。

 研究を通じて私たちが気づいたのは、台頭する国家が平和的傾向であるのは、今後も台頭が可能であるという確信があること、つまり時間が過ぎるのを待っていればいまよりも良い未来が訪れるはずだという余裕があるときです。

 衰退する国家もまた平和的傾向があります。そうした国家は外国との関わりを増やせず、むしろコミットメントを減らす必要がある。崩壊期の大英帝国は、基本的にすべての大国と和平を結ぼうとしていました。

 しかし、この中間に位置するピークを迎えようとしている国家は、最も危険な傾向があります。

村野 そうした点から、中国には台湾を含めて冒険主義的な行動を取りうるリスクがあるわけですよね。

 軍事情報分析の観点から言えば、習近平にはいつまでに台湾を統一しなければならないといった具体的なカレンダーがあるわけではなく、その動機を左右するのは能力でしょう。台湾攻略は、習近平にとって失敗の許されない決断であり、能力が十分に整っていない状態で迂闊に台湾に手を出す賭けに出るとは考えにくい。