さらに、私の懐疑心を決定付けたのは、日本と中国の間に作られたいくつかの秘密の地下銀行の存在です。公式な銀行を使って中国で稼いだカネを日本に送金することは、国家によるチェックを避けられないので、危険な行為と言えるでしょう。しかし、地下銀行を使えば、全財産を日本や世界各国に移して隠すことができます。また、中国からの大規模な資産送金には仮想通貨も使われているようです。

 カネもあり、そして自由もあれば、円安で治安もよく、教育も比較的安定している日本は、富裕層の避難場所として大変便利な国であることがわかります。

 さらに、彼らを日本にたぐり寄せているのがビザの改訂です。経営・管理ビザは、外国人が経営者、管理者として働くための就労ビザで、さらに高度な高度専門職1号ビザと共に、中国人の申請がこの1年で前者が3倍、後者が1.5倍に増えています。高度専門職ビザ1号だと、在留期間も最長5年まで認められ、中国大陸の動静をじっくり見ながら日本での生活を送ることができます。

 最近中国では、「習近平主席が大事な会議で倒れて入院した」「軍部の重要人物が行方不明になった」、あるいは「習近平に会議で尊称が付けられなくなった」など、真偽不明の情報が流れ出しました。何が正しいかわからないのが中国ではありますが、火のないところに煙は立たないという諺が無視できないお国柄なので、習近平の中央集権体制が磐石でなくなっているのは推測できます。

 また、中国経済の不安を背景に、鄧小平以来の「社会主義より経済建設」という主張も再び幅を利かせ始めました。そして、貧富の差が極端に進み、大都市を抱える省と地方では人々の暮らしにも大きな差が出てきました。こうした格差が進めば、やがて中国が分裂するという説もあります。いや、そもそもそれを繰り返してきたのが中国という地域の歴史でした。

中国の大乱を傍観するのか
難題を向けられた日本の行方

「潤日」たちの間でも、意見は分かれています。このまま日本で中国の大乱を傍観するという人、中国が社会主義を捨てたら中国に戻りたいという人、積極的に資本主義中国を支持する人など様々です。

 どんな結果になるかわかりませんが、日本はこれまで以上に対中関係に気を遣わなくてはならないでしょう。

 たとえば、日本は「分裂中国」とどう向き合うのでしょうか。下手をすると、日中戦争のように、中国の内乱に積極的に関わろうという日本人も出てくるかもしれません。あるいは資本主義大国・中国とどう付き合うのか(資本主義国家になったからといって、緊張関係がなくなるとは限りません)。そして、中国を見据えた日米同盟をどうするのか――。

 大変な難題が日本に降りかかってくるのが、確実に見えてくる1冊です。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)