話が通じない人がいたときは「見捨てるのが正解」なのか?
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

職場では「おせっかいさん」が求められている
仕事上でコミュニケーションをとっていると、「この人、話が通じないな……」と思うことはありませんか。
たとえば、提案やアドバイスをしても話に耳を傾けてくれない。もしくは、こちらが改善を試みてもそっぽを向いてしまう。思わずやれやれって言いたくなる人です。
では、そんな人がいた場合はどうしたらいいのでしょうか?
それは「こう考えるのが、ここではふつうなんですよ」と伝え続けるしかない、ということ。
自らのふつうにしか目を向けない、歩み寄る姿勢のない人には指摘し続けるしかない。そう思っています。
わかります。なんで自分がそんなリスクをとって指摘しなくてはならないのか。パワハラになりかねないぞ、と。
たしかに見限るのは簡単です。でもそこで諦めてしまったら、相手の成長も期待できないし、お互いの関係の発展も閉ざしてしまうことになります。そういう組織や社会って、なんかさみしくないですか。
以前、友人からこんな話を聞きました。
その友人は100人規模の企業に勤めているのですが、別の部署に新卒3年目の女性社員(Aさん)がいます。Aさんは仕事はそれなりにできるし、性格は明るくてフレンドリー。周囲の評判は総じていい。
ただし、男性社員限定です。
女性社員からはめっぽう評判が悪い。
きっかけはAさんが入社1年目のとき、顧客に対するメールでの間違った言葉遣いを、リーダー(女性)から指摘されたことでした。Aさんはその場では「わかりました」と受け入れたそうです。しかし、あとからリーダーは部長(男性)から呼び出され、こう問いただされたそうです。
「Aさんがあなたから厳しいことを言われて傷ついているみたい。なんかあったの?」
これにリーダーは怒り心頭。リーダーとして伝えるべきことを伝えただけなのに、なぜか悪者扱い。しかもAさんは部長をはじめ、男性社員に「◯◯さん(リーダー)ってすごく怖いんですよ」と言い回っていたそう。結局、チーム異動はなかったものの、リーダーはAさんと距離を置くようになりました。
それからというもの、誰もAさんには指摘をしなくなりました。どうやら3年目の現在でも、言葉遣いや一般的なビジネスマナーに違和感があるようなのですが、それでも周りはスルー。
ぼくの友人はAさんたちとは違う部署なのですが、遠目から見ていてこう思うそうです。
「もう3年目で後輩もいる立場だし、誰も指摘してあげないだろうね。みじめだよ、ほんと。転職したら痛い目みると思うね」
この話を聞いて、なんだかなと思ってしまいました。
Aさんに否があるのはよくわかります。リーダーが怒りたくなるのも当然です。だけど、本人と組織のために誰か指摘してあげてもいいのではないでしょうか。チーム内のコミュニケーションに難があれば、対顧客でも実害が出るのは時間の問題のような気がします。
いずれにせよ大事なのは、まずは言葉にして伝える回数を増やすこと。そのときに正論を言う場合は、以前の記事でお伝えしたようなキョロキョロ感を出す表現や、締めくくりを意識して伝え方を工夫することではないでしょうか。
もちろん実践してすぐ解決とはならないと思います。でもいざコミュニケーションをとってみたら、相手の言い分も聞けるかもしれません。そこで納得できるかどうかは別問題ですが、少なくとも理解はできるはずです。
組織にとってネガティブな例外を増やさないためにも、実害を出さないためにも、その相手のこれからのためにも、おせっかいを演じてみる。それが必要なんじゃないでしょうか。
ふつうが機能しないシーンが増えているからこそ、「これが私たちのふつうだ」と言える人の存在がとても大切になっている。そう思います。
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。
※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子 錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。