「とはいえ政治家は公約なんて守らないよね。公約がぜんぶ守られていたら今頃もっといい国民生活になっていたはずだよな」
まあそう受け取るオトナの読者が多いのではないかと思います。
さて、公約は守られるのか守られないのか?ここからは、はなはだ野暮は話をさせていただくのですが、この政策、実は日本政府は簡単に実現できる目標なのかもしれないのです。ここで冒頭にお話ししたふたつ目のトリックの話をさせていただきます。
自民党の掲げる「名目GDPを2040年に1000兆円へ」という目標は、日本のインフレがこれから先に激化したら経済が成長しなくても自動的に実現するのです。
さきほど申し上げたように、足元の2024年は日本の経済成長率は0.8%でした。しかし、食品中心にインフレが進んだことで名目GDPは年率3.0%で増えました。
今年に入ってからコメの価格は昨年の倍に高騰しています。ガソリンや電気代もあいかわらず高いし、円安もピーク時よりはよくなったとはいえ1ドル=145円近辺と高止まりしています。
こんな状況が続いたとしたらどうでしょう?これから2040年までの16年間、年率3.1%のインフレが続いたとして計算すると、経済がまったく成長しなくても日本のGDPは1000兆円を達成します。
ですから一見無謀な公約に見えますが、官邸を仕切る高級官僚から見れば、この公約はたやすく達成できる目標なのです。達成できそうになければ国債を増発したり、政府支出を増やして放漫財政で国を運営させればいつでも目標に到達できます。
こうして石破首相が引退して回顧録を出版する頃には、
「私が掲げた自民党の目標、GDP1000兆円は達成されました」
と書くことができるわけですが、それはいいことかというとそうではないのです。
これが私が冒頭に「国のトップが掲げる経済目標としては、はなはだ不適切な目標です」と述べた理由です。大企業の経営者はこういった目標設定は当然やってはいけないことだとわかっています。社員が目標を達成しようとした結果、会社の利益を棄損するような行動をとってしまう可能性があるからです。ではなぜ政治家はわざわざ国を危うくするような目標を打ち出すのでしょうか?