WTI20ドル/バレル相当の鉱物資源価格の
下落に伴って生じる日本経済の輸入負担減少額

トランプ関税の陰に隠れながらも、日本経済にとって“干天の慈雨”とも呼ぶべき現象が起きている。原油価格の下落である。
その背景は複合的だ。需要面では、トランプ米政権による大規模な関税措置を受けて景気減速への懸念が重しとなっている。供給面では、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国で構成するOPECプラスが、自主減産の解除に転じたことが大きい。こうして、需給両面から原油価格には下押し圧力がかかり続けている。
エネルギー価格の下落は、グローバルな所得再分配を促し、資源輸入国には好機を、資源国には苦境をもたらす。とりわけエネルギー資源の大半を輸入に依存する日本にとっては、まさに天恵である。
2024年における日本の鉱物性燃料の輸入金額は25.5兆円に達した。仮に昨年と比べて原油価格(WTI)が20ドル/バレル下落し、他の鉱物性燃料も同様に価格が下落した場合、日本の輸入額は6.8兆円減少する。これと同額分、日本企業や家計が負う負担を軽減する効果が期待される。
産業連関表を用いて原油価格下落の恩恵を案分すると、企業の営業利益は2.7兆円、家計の可処分所得は4.1兆円増加する見込みだ。これに伴い、トランプ関税により日本企業が輸出時に直面する費用の増加分は、おおむね相殺されることが期待できる。
外部環境が好悪入り交じる中、日本経済に問われているのは、突き詰めれば“地力”である。
トランプ関税と原油価格の下落は、他の要因が一定であれば、いずれも日本の物価を押し下げる方向に作用する。それにもかかわらず、日本の物価上昇率は、食料品など生活必需品を中心に高止まりを続けている。
日本経済にとって真の脅威はトランプ関税ではない。人口動態によって規定される供給不足だ。これは成長率を恒常的に抑制する要因であると同時に、悪性インフレを引き起こして家計を圧迫し続ける存在だ。
インフレや円安、低成長といった日本が抱える問題は、それぞれ独立しているように見えて、本質は同じである。いずれも、少子高齢化を背景とした供給制約に行き着く、同じ根を持つ現象なのだ。
(みずほ証券エクイティ調査部 チーフエコノミスト 小林俊介)