
トランプ氏によるEUへの新たな関税が全て撤廃されることは難しい。自動車への課税はユーロ圏の景気を大きく冷え込ませる。原油安とユーロ高ドル安の進行は物価上昇をさらに鈍化させる。インフレ沈静化と景気後退リスクが同時進行するなか、ECBはさらなる利下げに踏み込む公算が大きい。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
朝令暮改のトランプ関税の
行方を楽観する市場
5月28日、トランプ氏は大統領執務室でのイベントで、TACO(Trump Always Chickens Out)tradeについて質問され、「これまでの度重なる姿勢軟化は貿易面で譲歩を引き出すための戦略的な動きだった」と主張した。
EU(欧州連合)への50%関税も、5月23日に6月1日実施と打ち出された後、25日には7月9日までの期限延長が決められた。そうしたなか、ドイツのDAX指数は史上最高値を更新し続けている。
「ドイツのBMWとメルセデス、フォルクスワーゲンが関税問題でラトニック商務長官と集中協議を行っており、合意成立に近づいている」と独紙ハンデルスブラットが報じるなか、トランプ氏のこだわりの強い自動車(関税)ですら、英国並みの譲歩が得られるとの期待が高まっているもようだ。
ただ、5月30日のニューヨークでの取引が終了した後、トランプ米大統領は「鉄鋼関税を6月4日に50%に引き上げる」と発言した。
次ページでは、今後のトランプ関税の行方を占いつつ、ユーロ圏の景気動向、金融政策の行方を予測する。