いまシリコンバレーをはじめ、世界で「ストイシズム」の教えが爆発的に広がっている。日本でも、ストイックな生き方が身につく『STOIC 人生の教科書ストイシズム』(ブリタニー・ポラット著、花塚恵訳)がついに刊行。佐藤優氏が「大きな理想を獲得するには禁欲が必要だ。この逆説の神髄をつかんだ者が勝利する」と評する一冊だ。同書の刊行に寄せて、ライターの小川晶子さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)

「圧倒的に運がいい人」が自然にしている考え方・ベスト1Photo: Adobe Stock

運がいい人の考え方

「自分は運がいい」

 そう思い込んで、自ら運を切り拓いた人といえば高橋是清が思い浮かぶ。

 明治期に日銀総裁、大正期に総理大臣となり、その前後を含め、大蔵大臣を7回務めた人物だ。

 高橋是清は子ども時代から波乱万丈の人生だった。

 とくにすごいのは14歳のときアメリカに留学したら、なんとホームステイ先で騙されて奴隷として売られてしまったということだ。

 やけに働かされるなとは思っていたが、最初は気づいていなかった。あるとき世話になっている家で主人と喧嘩し、「ここを出ていきたい!」と言ったら「3年は働いてもらう契約だぞ!」と言われて、「え、おれって奴隷だったの?」と気づいたという。

 愛嬌のある是清はなんだかんだよくしてもらい、なんとか契約を破棄して帰国した。

 しかしそのときの日本は明治維新まっさかりで、まさに激動の時代である。その後、職を転々とする中でも数々の失敗をしている。

 30代でペルーにある鉱山を経営しようとしたら実はそれがくず山で莫大な借金を負うことになったというのもすごい。

 人によっては「自分は運が悪い」と思ってしまいそうなところだ。

 だが是清はつねに前向きで、「いつかよい運がめぐってくる」と信じていた。5歳の頃に道で馬に踏まれたのになんともなかったことから、「なんて運のいい子だ」と評判になり、「自分は運がいいんだ」と信じ込んだのがきっかけだったという。

 前向きで明るい是清のもとへはさまざまな出会い、チャンスがやって来た。それを次々とものにして、日本の財政を立て直すといった大きなミッションまで成し遂げるにいたった。

運はコントロール可能なもの

「自分は運がいい」と思っていると、目の前の出来事をチャンスだと捉えることができる。物事のいい面に感謝し、悪いことが起きても「このあと必ずよくなるはずだ」と考えることができる。

 こうした心持ちが、運を引き寄せるのだろう。

 そう考えると、運とは「何もしないで偶然にやってくるもの」ではなく、コントロール可能なものである。少なくとも、「運がいい」と思って前向きに行動するか、「運が悪い」と思って後ろ向きに行動するかは自分で決めることができる。

 古代ギリシャで生まれたストア哲学においても、運は偶然の産物ではなく、「自分で自分に与えるもの」だと説かれている。

自分に運を与える

「幸運だ」というのは自分で自分によい運を与えたという意味で、よい運とは、魂のよい性質、よい感情、よい行動のことだ。(マルクス・アウレリウス『自省録』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より

 このマルクス・アウレリウスの言葉はシンプルで力強い。

 一般に、運はコントロールできないものだと思われがちだ。

 だが彼は、幸運は待つものではなく、自らの内面や行動によって築いていくものだという。「自分は運がいい」と考える姿勢こそが、すでに自分に幸運をもたらしているのだ。

 私も運を天に任せるのではなく、自分でよい運を育てていきたい。

(本原稿は、ブリタニー・ポラット著『STOIC 人生の教科書ストイシズム』〈花塚恵訳〉に関連した書き下ろし記事です)