
企業のデジタル化推進を目的として、2017年より実施されているIT導入補助金制度を所管する中小企業庁の経営支援部生産性向上支援室室長補佐で、IT導入補助金担当の村山裕紀氏へのインタビュー後編では、IT導入補助金制度の詳細や、企業のデジタル化、デジタル人材育成を促進する関連制度などを語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 大坪 亮、文・撮影/嶺 竜一)
IT導入補助金制度は五つの枠がある
――IT導入補助金制度の詳細を教えてください。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等の労働生産性向上を目的として、業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。2023年は約7万件を採択、24年は約5万件を採択しました。
24年度補正の「IT導入補助金2025」では、最低賃金引上げへの対応促進に向けて最低賃金近傍の事業者の補助率を増加し、先ほど述べましたようにIT活用の定着を促す導入後の「活用支援」も対象化し、セキュリティ対策支援を強化しました(図1参照)。
制度には「通常枠」「複数社連携IT導入枠」「インボイス枠(インボイス対応類型)」「インボイス枠(電子取引類型)」「セキュリティ対策推進枠」の五つの枠があります。
「通常枠」は、中小企業・小規模事業者がITツールを導入して業務効率化やDXを推進するための補助金です。会計、受発注、在庫管理、顧客管理、決済など、事業のデジタル化を目的としたITツールの導入を支援します。
補助金の対象は、ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、機能拡張やデータ連携ツールの導入、導入・活用コンサルティング費用等となっています。
「複数社連携IT導入枠」は、複数の中小企業・小規模事業者が連携して地域DXの実現や、生産性の向上を図る取り組みを支援するものです。商店街振興組合、商⼯会議所、商⼯会や、地域のまちづくり、商業活性化、観光振興等の担い手となる中小事業者や団体、複数の中小企業・小規模事業者等により形成されるコンソーシアム等が対象になります。
補助対象は広く、基盤導入経費として会計ソフトや受発注ソフトなどのITツールとその導入に必要なPC・タブレット、レジ・券売機等のハードウェア、消費動向等分析経費として消費者動向分析システム、需要予測システム、電子地域通貨システムなどのITツールとその導入に必要な、AIカメラ、デジタルサイネージ等のハードウェア、参画事業者の取りまとめに係る事務費、専門家費も含まれます。
「インボイス枠(インボイス対応類型)」は、中小企業・小規模事業者がインボイス制度に対応したITツールを導⼊するのを強⼒に推進するため、会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトの導⼊費⽤(クラウド利用の場合は最大2年分の利用料)に加え、その導入に必要なPC、タブレット、レジ・券売機等のハードウェアの導⼊費⽤を⽀援するものです。
「インボイス枠(電子取引類型)」は、取引関係における発注者がインボイス制度対応のITツール(受発注ソフト)を導⼊し、取引関係における受注者である中⼩企業・⼩規模事業者等に対して無償でアカウントを供与して利⽤させる場合に、その導⼊費⽤を⽀援するものです。こちらは中小企業、小規模事業者だけでなく、大企業も対象です。
「セキュリティ対策推進枠」は、近年増加するサイバー攻撃から中小企業・⼩規模事業者を保護することを目的に、サイバーセキュリティ対策の費用を支援するものです。情報処理推進機構(IPA)が審査し、「サイバーセキュリティお助け隊サービス」に認定したサービスの中でIT導入補助金事務局に登録されたサービスが対象になります。セキュリティシステムの導入費用(クラウド利用の場合は最大2年分の利用料)を対象としています。
――中小企業が単独でIT導入補助金を活用したい場合には、通常枠とインボイス枠(インボイス対応類型)、セキュリティ対策推進枠が対象になりそうですが、併用も可能ですか。
可能です。ここ数年では、インボイス制度への対応を契機とした導入が多く、利用される枠の割合は、インボイス枠の利用が全体の6割以上、通常枠が3割程度となっています。
――どのような業種、規模の企業に多く活用されていますか。
業種別の採択件数は、建設、卸売・小売、飲食サービスなど、「人手不足」が課題となる業種での導入が比較的多いですが、さまざまな業種で活用されてきています(図2参照)。採択された企業の事業規模は従業員50人未満の企業が圧倒的多数を占めており、従業員5人以下の小規模事業者にも多く活用されています。
また、補助額は100万円未満の申請が最も多く、無理なく導入しやすい規模感で活用されていると思われます。