
日本の企業文化を考慮して、デジタル化をいかに推進していくか。デジタル人材が不足しているといわれる中堅・中小企業では、外部リソースを活用する手立てはないのか。名古屋商科大学ビジネススクールの根来龍之教授へのインタビューの後編では、中堅・中小企業にとって有効なDX施策を詳述する。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 大坪 亮、文・撮影/嶺竜一)
経営層自らデジタルツールを使うことが
DX推進の最善策
日本企業のデジタル活用がなかなか進まない理由の一つに、新しいものを最初に試すことへの心理的抵抗がある。「日本企業は良くも悪くも他社を気にします。『他社がやっていないことを先にやるのはリスクが大きい』という考えが根強く、ファーストペンギン(最初に海に飛び込む挑戦者)を避ける傾向が強い」。そう語るのは名古屋商科大学ビジネススクールの根来龍之教授だ。
しかし、サブスク型SaaS(Software as a Service)や生成AIのように「試して、駄目ならすぐやめられる」技術が登場した今日、過剰なリスク回避は多大な機会損失につながる。
一方で、同業他社に先駆けて初期導入に踏み切った企業が競争優位を築いている例は増えている。「いかに早く試し、現場で使えるようにするか」が競争力の源泉となる。
「中堅・中小企業からは、『当社にはデジタル人材がいない』と嘆く声を聞きますが、それは思い込みです。昔のシステムとは異なり、SaaSや生成AIは、専門家でなくても、学べば簡単に使えるようになる。
例えば100人規模の会社なら、デジタル技術に興味を持つ社員は必ずいます。彼らがSaaSや生成AIを使いこなすのは難しいことではない。興味とやる気があれば誰でもデジタル人材になれる。経営者がそういう社員を探して、権限を付与すれば、すぐに成果は出るはずです」と根来教授は話す。
同時に、「経営層が率先してデジタルツールを使うことが極めて重要になる」と根来教授は続ける。
とりわけ生成AIは、インタビュー前編で触れた通りホワイトカラー業務の有効な支援ツールであり、経営者はホワイトカラーだ。例えば最近では、Google「NotebookLM」などの法人向けAIノートサービスをフル活用している経営者もいる。
このサービスはネット接続して外部情報を活用するため、例えば社外の大規模ミーティングでの出席者情報の検索・リスト化など、独自に固有データベースを持たなくても、瞬時に作成できる。社内情報は、「AIの学習には使わない」と契約に明記しているサービスもあり、そのようなサービスの場合、情報漏えいリスクを過度に恐れる必要はない。トップ自らが利用することで、「デジタル技術の活用は全社マター」というメッセージを社内に示すことができる。
「日本では『現場がトップを見て動く』傾向が強く、経営層がデジタル化の実践者であることはDX(デジタルトランスフォーメーション)のスピードアップに直結する。無論、経営者は全てのツールを自分で使いこなせなくともよい。『何ができるか』を理解し、挑戦する姿勢を示すことが、組織変化を促す」と根来教授は言う。