このような状況で、私たちの祖先が生きのびるには、からだへのエネルギー貯蔵を可能にし、中等度の身体活動を奨励するような遺伝子、いわば「倹約遺伝子」の獲得が必要不可欠であったと考えられています(単一の遺伝子ではなく、いくつかの遺伝子の総体的概念とお考えください)。
倹約遺伝子が
肥満や糖尿病をもたらす要因に
そのような、食糧不足が慢性化し、ハードな身体活動が不可欠であった時代は、つい最近(およそ100年くらい前)まで続いていました。そのため、直近の1万年ほどのあいだ、遺伝子配列には、ほとんど変化がなかったと考えられています(図1-17)。

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しかし現在では、食糧の増加、身体活動の減少、座位行動の拡大などにより、「倹約遺伝子」が肥満やそれと関連する糖尿病などの生活習慣病の激増をもたらす要因になってしまったと考えられています。
2型糖尿病や脂質異常症などが「生活習慣病」として包括的に呼称されているのは、運動や食事、さらには喫煙などさまざまな生活習慣(ライフスタイル)がそれらの発症に影響するためです。しかし、それら生活習慣病の発症には遺伝的要因(遺伝的リスク)も大きく関わっています。
図1-19は、ヒトのさまざまな形質(編集部注/生物が持つさまざまな特徴や性質を指す言葉)におよぼす遺伝と環境の要因の影響を示しています。

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生活習慣病の要因は
遺伝か環境か?
ある形質の遺伝率が高ければ、その形質は先天的、つまり生まれつきの要因が強く関与します。裏返せば、後天的な要因、すなわち生まれた後の環境的諸要因の影響は弱いといえます。