対象者として欧米人を多く含むゲノムワイド関連解析(GWAS)により同定された2型糖尿病感受性遺伝子の多くは、肥満と関連することが報告されています。また、日本人を含む東アジア人を研究対象としたGWASも行われており、東アジア人に特有の2型糖尿病感受性遺伝子も同定されています。

 この東アジアに特有な2型糖尿病感受性遺伝子の多くは、膵臓β細胞機能に関連する遺伝子です。その事実から、インスリン分泌能が欧米人にくらべて低く、肥満にならなくても2型糖尿病を発症しやすいという、東アジア人の特徴が浮かび上がってきます。

脂質異常症の遺伝リスクは
運動習慣で克服できる

 次に、私たちのチームによる研究成果をご紹介しましょう。血中の中性脂肪(TG:トリグリセリド)濃度におよぼす遺伝的リスクと心肺体力の関係に関するものです。

 対象者は中高年男性で、血中TG濃度に関連する7つの遺伝子多型の保有数からリスクスコアを算出し、3つの群に分けるとともに、心肺体力は二分し、血中TG濃度におよぼす遺伝的リスクと心肺体力の関連を検討しました。

 その結果、日常的な運動習慣によって心肺体力を高く保持していれば、たとえ、その遺伝的リスクが高くても、血中TG濃度を適正なレベルに保つことができることが明らかになりました(図1-23)。

図表6:血中の中性脂肪濃度におよぼす遺伝的リスクと心肺体力の影響同書より転載
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 以上に紹介した一連の研究は、当時は大学院生であった谷澤薫平博士(現:早稲田大学スポーツ科学学術院准教授)が中心となり、スポーツ内科学が専門の坂本静男教授(現:名誉教授)らのサポートを得て行われたものです。

 GRSを構成するのに用いたSNPが少数であるため、予測精度にはさらなる課題もあるものの、この研究からは、中高年者、とりわけ65歳以上のシニア層の人々の健康に、遺伝的リスクがどうであれ、運動を習慣化したアクティブなライフスタイルが大きな影響をおよぼす可能性が強く示唆されています。