昔の写真館にあったような、人が布をかぶって撮影した8×10(エイトバイテン)っていう大きなカメラがあって、それで撮影することがフォトグラファーにとってもタレントさんにとってもひとつのステータスだったんです。

 カメラにはヒエラルキーみたいなものがあって、フィルム時代はエイトバイテンが最上位クラスで、一眼レフですら低いクラスなんです。写ルンですはほぼ圏外クラスでした。

 エイトバイテンのことを略称でバイテンって呼ぶんですけど、そのフォトグラファーは売店とバイテンをかけて「今日はバイテンで撮影します。バイテンはバイテンでも売店で買った写ルンですだけどね」というジョークをかまして撮影を乗り切った話が書かれていました。

 文章もめちゃくちゃおもしろくて、実際に撮った写真もよかったんですよね。普通失敗のエピソードなんて書かないじゃないですか。フォトグラファーってカッコつける人が多いから新鮮でした。ぼくは撮影現場にカメラを忘れたら写ルンですで撮影しようって心に決めてます。

 コラムを書いたフォトグラファーはリリー・フランキーさんです。井川遥さんを撮影したときのエピソードです。リリー・フランキーさんって多才ですよね。鮮明に覚えているなんて言ったけど、15年以上前に読んだから間違ってるかもしれない。

「おもしろい人が撮る写真はおもしろい」写真とビジネスに共通するAI時代を生き抜く鍵とは?写真:幡野広志

AIに淘汰されない写真家

 AIで写真が生成できるようになりました。まだ違和感はあるものの、クオリティの高い写真が生成されています。AIで写真家が淘汰されるかといえば下位の人は確かに淘汰されますが、上位の人は間違いなく残るんです。

 AIで生成する写真にもすでに優劣はあって、上位の写真家がAIを使うとかなりいいものができちゃうんですよね。生成されたAI写真を素材にして、写真家が持ってるトーンや粗さを組み込めますからね。

 きれいに写真を撮ろうと思っていたり、きれいなAI写真を生成しようとしたりするといずれあっさりと淘汰されちゃうんですけど、粗さって結構必要なんですよね。ちょっと抜けているところのあるドラえもんが愛されるのとおなじで、AIのクオリティがどんなにあがろうが、この人にお願いしたいという写真家は残るんですよね。