「おもしろい人が撮る写真はおもしろい」写真とビジネスに共通するAI時代を生き抜く鍵とは?写真:幡野広志

どんなに技術があっても、つまらない人が撮る写真は、つまらない。逆に素人でも、おもしろい人はいきなりいい写真が撮れたりする。写真でもビジネスでも重要なのは、その人が「おもしろい人」であるかどうか。そこにAI時代を生き抜く鍵がある。※本稿は、幡野広志『ポケットにカメラをいれて』(ポプラ社)の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。

つまらない人が撮る写真はつまらない

 2018年の4月にベトナムへ行った。ベトナムを訪れたのは2009年以来、2回目だ。当時、ぼくは箸にも棒にもかからない存在で、写真家を名乗る自信も覚悟も実績もなかった。評価されない自分を認めることができずに、評価されている人間をうらやんだ。日本で撮影することがつまらなくて、海外で撮影することでやった気になっていた。

 当時の自分と作品を振り返ると、日本で撮影することがつまらないのではなくて、ぼく自身がつまらない人間だっただけだ。つまらない人間が撮ってるから写真もつまらない。評価されず、箸にも棒にもかからないのにはちゃんと理由があった。

 9年前に滞在していたベトナムのホテルの部屋に置かれていたレターセットで当時、付き合っていた妻へ手紙を書いていた。その手紙を妻はいまでも大切に持っている。

 引越しをしたときにその手紙をぼくが見つけて、恐る恐る手にとって読んでみた。どんなことを書いていたかまったく覚えていない。とんでもないラブレターだったらどうしよう。

 9年前の手紙はあっさりしていた。「いつか有名な写真家になって自慢できるようにしてあげるよ」と手紙には書いてあった。9年後でも読める手紙にしていた9年前の自分を褒めてあげたい。いまのぼくは写真がよくなったというよりは、おもしろい人になれたのだと思う。