空腹で思考が麻痺
追い込まれていくコン太(櫻井健人)

 空腹すぎて思考が次第に麻痺していく。ダンゴムシを「だんご」と同じ名前だから食べようとするコン太(櫻井健人)を嵩は止める。嵩はまだ冷静さを保っているが、コン太は追い込まれていき、食べ物を求めて民家に押し入る。

 そこにはヤン・チュアンユン(天野眞由美)がいた。コン太は彼女に銃をつきつけ、食料を要求するが、
すでにほかの兵隊たちが食料をあらかた食べてしまったという。日本人もひどいことをするなあ。

 嵩は「なにしてるのかわかってるのか」と厳しく咎める。でもコン太はもう死ぬのだから最後はお腹いっぱい食べて死にたいと自暴自棄になっていた。

 ヤンは銃を突きつけられても毅然として、待ってろと産みたての鶏卵を持ってくる。そして茹でる。

 卵が茹で上がるのを待つ時間は数分。あたたかいゆで卵はどれだけ魅力的であったことか。

 コン太と神野は殻ごとむさぼり食う。このときの奥野瑛太の表情は凄まじい。

 嵩は罪悪感があるのか食べずにいると、ヤンが勧めてくる。

 心から「謝謝(シェイシェイ)」と感謝して、嵩も殻ごと食べた。

「おいしい」と泣き声で食べる。殻の乾いた音が響く。

 それを見つめるヤンの丸い頬にうっすら光が当たっていた。

「あのばあさん うちのお母にどことのう似ちょった」

 民家からの帰り道、コン太はつぶやく。

『双子の島』で敵対していたふたりが実は双子だったことと同じく、戦争している相手も同じ人間なのである。

 と、そこへ銃の音が耳をつんざいた。

 駆けつけると、岩男(濱尾ノリタカ)が撃たれて息も絶え絶えとなっていた。

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