「この戦争さえなかったら――」千尋が兄に語った、ひとりではできない“今生の願い”【あんぱん第54回レビュー】『あんぱん』第54回より 写真提供:NHK

日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第54回(2025年6月12日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)

座敷のなかで15分
北村匠海と中沢元紀の演技一本勝負

「この戦争がなかったら――」
「この戦争がなかったら――」
「この戦争がなかったら――」

「この戦争さえなかったら!」

「が」を繰り返し、最後は「さえ」を使う。千尋(中沢元紀)のセリフ、この意図や効果は? というような国語の試験問題に出そうな構文であった。

 海軍士官になった千尋が嵩(北村匠海)を訪ねて小倉にやって来た。

 シックな料亭? で3年ぶりに兄弟ふたりきり、料理や酒を前に語り合う千尋と嵩。

 第54回はこの座敷のなかで15分、北村匠海と中沢元紀、ふたりきりの演技一本勝負となった。

 なんだかすっかり変わってしまった千尋。千尋は海軍に自ら志願したと言う。

 優秀なはずの京都帝国大学の学友たちがこぞって「日本を守るために戦争をするんや!」「愛する祖国を守るためや!」、陸軍は泥臭いから海軍に行く、などと意気盛ん。その流れで千尋も海軍に入ったのだと言う。