林の中で
八木(妻夫木聡)が見たものとは
視聴者はあらかじめ、岩男とリン・シュエリャン(渋谷そらじ)との場面を見ているので、薄々撃った相手はわかっているが、嵩たちにはいきさつがわからない。
岩男は「あの子は関係ありません」とかばう。
岩男は、無邪気になつくリンに、便衣(スパイ)と疑われているから、もう近づくなと警告していた。リンは別れを惜しんで「さようならイワオサン」と岩男に抱きついたように見えたが、そのとき目つきが鋭く変わっていた。奥野瑛太の演技もすごかったが、この子役の目つきの変化も見事。

その後に銃声が響いた。やっぱりリンはスパイだったのか。
林の中を八木(妻夫木聡)が銃を持って警戒していると、リンが銃を抱えて隠れていた。
八木まで撃たれてしまうのか、それとも八木が子どもを撃ってしまうのか。気になるところでつづく。
第58回で何に驚いたかというと、中国人の女性を脅して食料を略奪しようとして、逆に情をかけられ食べ物を分けてもらうことになるという話で、じーんっとなって終わってもよさそうなところ、そうしないところである。
施してくれる異国人の一方で、異国の子どもが日本人を撃つ。リンは、スパイとして紛れ込み、日本人と親しくしていたのだ。幼い子どもだから油断すると踏んだ作戦であろうか。なんともせちがらい。
このように、情をかける人もいれば、騙す人もいる。日本人だって飢えたら理性が吹っ飛んで、何もしない人に銃を突きつけて食べ物を出せと脅してしまう。人間のなかには善意も誇りも悪意も弱い心も宿っているのだ。
制作統括の倉崎憲チーフプロデューサーに話を聞いたところ「中園さんは1年半以上前――第1週を書き始める頃から書きたいと言っていました。日本兵が地元民の民家に押し入ったとき、追い返されるのではなく食料を差し出してくれる。そのとき、日本兵はどう思うのか、それを私は書きたいですと」と話してくれた。(Yahooニュースエキスパート「俳優たちは殻ごと食べた。差し出されたゆで卵。アンパンマンを想起させる中園ミホ渾身のエピソード」より)
日本人は正義のために戦っていると思っているけれど、中国の人にだって正義がある。
次回を見るまでは確かなことは言えないとはいえ、まずは卵のエピソードとリンと岩男のエピソードと、若い男がいなくなっている日本の様子を15分の中で絡めて描いたことを高く評価したい。