これはBYDの車を所有している私の立場で感じることですが、BYDの車は確かに乗りやすい。いい車です。しかしトヨタと同程度に過ぎない。テスラのように圧倒的な次世代感はありません。

 ここで言うテスラの次世代感とは車の良しあしの話ではありません。ひとつは製造にかかわる設計思想です。ギガファクトリーで製造するテスラ車の圧倒的な生産性の高さは異次元のものです。もうひとつは、ソフトウェアをダウンロードするたびに性能が向上するSDV車としてのテスラのこれまでの実績です。

 テスラと比較してみると、中国市場ではこの尺度での次世代車ではまだ勝ち組が確定していません。BYDの工場は確かに自動化・ロボット化は日本以上に進んでいますが、車のボンネットを開けるとまだ部品点数がかなり多いことがわかります。ソフトウェアもダウンロードには対応していますが、自動運転としての技術は日本車並です。

 逆の言い方をすれば、競合の新エネ車メーカーや小米やファーウェイなどのIT大手がBYDに代わって台頭するリスクは小さくない。勝ち組がBYDになるのか、それとも他の新興自動車メーカーになるのかはまだわからない。それがBYDの時価総額が21兆円にとどまっている最大の理由でしょう。

 そのような不安定な競争市場で、足元ではお互いが利益を削り合う価格競争が始まっています。BYDから見れば今はシェアを金で買うことで、競争相手の数を減らす戦略に専念している形です。

 ではここで中国車の勢いは止まるのでしょうか?日本車やドイツ車、アメリカ車にとってこの状況は好機と言えるのでしょうか?

 ここが一番重要な点ですが、中国市場は世界でも突出して次世代車へと需要のハンドルが大きく切られています。足元の中国市場では新車販売の過半数がEVとプラグインハイブリッドの新エネ車です。特にこの5月は、新エネ車比率が54.7%で1月以降で最高の水準に到達しています。