その結果、起きることは中国市場での業界再編です。中国市場には現在、100を超える自動車メーカーが存在しますが、破壊的な価格競争が起きればその大半が淘汰されるでしょう。

 若い読者の方はご存じないと思いますが、日本の自動車産業も同じ経験を経ています。1950年代には日本にも30以上の自動車メーカーが存在しました。たとえば東急グループには「東急くろがね工業」という自動車メーカーがあって、主に三輪トラックを製造していましたし、オフィス家具メーカーのオカムラもミカサという国産車を製造していました。

 業界再編の結果、日産自動車と合併したプリンス自動車の主力車スカイラインは、その後「走りの日産」を象徴する車になりました。一方でさまざまなメーカーから発売されていた車たち、具体名を挙げればフジキャビン、オオタ、アキツ(三輪トラック)、オートサンダル、ライラック(自動二輪)など技術的には期待された車の多くは1960年代に消えていく運命となりました。

 これと同じ淘汰と再編が中国の自動車市場でも起きるでしょう。日本でも1970年代までにトヨタ、日産、ホンダ、三菱、マツダ、スズキ、ダイハツ、スバル、いすゞの9社体制に業界は再編されました。これと同じことが中国市場でも起きるとすれば、中国の自動車メーカーも10社以内に淘汰されていくことになるでしょう。

「中国産EVは終わり」は早合点
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 では、逆にそのような流れが起きたほうが業界トップのBYDにとって有利なのでしょうか?実はそうとも言えません。BYDは確かに中国を代表する自動車メーカーに成長しました。しかしBYDがテスラと決定的に違うのは、BYDはまだ時価総額21兆円程の会社に過ぎないということです。

 同じ土俵の上でのBYDの最大のライバルであるテスラは、トランプ氏とマスク氏が決裂して株価が暴落した後でもまだ時価総額は148兆円です。資本市場からテスラが圧倒的に高く評価されているのと比較すると、BYDはテスラ以上の世界販売台数を実現していながら時価総額がトヨタの半分に過ぎないのです。