BYDはこの5月、自社が販売する22のモデルについて、「夏だけの一律価格」として6月末まで価格を引き下げると発表しました。たとえばエントリーモデルのシーガルの場合は、最低価格が6万9800元(約140万円)から5万5800元(約110万円)に変更されました。

 シーガルは日本車で言うとトヨタのヤリスや日産のノートのような小型車です。このシーガルは、6月からヨーロッパ市場でも「ドルフィン・サーフ」の名前で2万3000ユーロ(約385万円)で販売されることになっています。

 以前、私はBYDの価格についてダイヤモンド・オンラインの連載で、中国での価格と輸送費や関税を含めた日本での販売価格は約1.6倍の差があると書かせていただいたことがあります。それと比較してみるとヨーロッパ市場で385万円の小型車が中国市場では140万円というのは、中国での価格が格段に安い設定になっていると思います。

 BYD車全体で大幅な値下げ攻勢だという状況になれば、年間550万台という販売台数目標は達成できるかもしれませんが「利益はどうなるんだ」と投資家が不安を感じるのは無理もないかもしれません。

 ただこの値下げ攻勢、もう少し深い事情があるように思えます。

 実は、中国経済は全体で失速し始めています。中国本土での不動産バブルの崩壊以降、中国の経済成長率はじりじりと下落基調です。それを下支えするために、中国政府は耐久消費財の買い替えに補助金を出す政策を打ち出しています。自動車もその対象です。

 ところが最近、一部の地方でこの補助金の財源が枯渇し始めたと報道されているのです。トランプ関税による輸出減速もあいまって、結果として2025年後半は中国経済が多いに冷え込むことが懸念されています。

 これは私の推測ですが、BYDも他の自動車メーカーもこのことを強く意識しているのだと思います。外部のアナリストが「この価格競争は破壊的だ」と警告しても、確信犯でそれに立ち向かっているわけです。