「書くのが遅い」を解決するたった1つの方法
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

普通の人は「書きながら直す」、では書くのが早い人はどうやって書いている?Photo: Adobe Stock

書き始める前に「下書き」を用意しよう

みなさん、こんな悩みはありませんか?

・同じ文章を何度も書き直して、なかなか前に進まない
・提案資料の文章を書くのに時間がかかる
・メールやチャットはいいけど、1000字を超える文章は書くのが苦手

ぼく自身、駆け出しの編集者時代は、A4の企画書を1枚まとめるのに3時間以上かかっていました。日中には別の仕事があるので、企画書は夜遅い時間に書いていたのを覚えています。

では、どうすれば速く書けるようになるのか?

結論から言ってしまうと、書くのが速い人は「下書き」を準備・活用しています。

より具体的にいうと、最初に「下書き」を用意して、そこから加筆・削除・整理といった「修正作業」をしているんです。

越川慎司さんの本『時短の一流、二流、三流』にも、こんなことが書かれています。

三流は、修正することを忘れ、
二流は、書きながら修正し、
一流は、全体を書き終えてから一括チェックする

1文ずつ推敲し、完璧な文章を積み重ねていこうとすると、時間がいくらあっても足りません。「こっちを整えたらこっちも直さないと……」と行ったり来たりしてしまう。この負の連鎖を直すたった一つの方法が「下書きの活用」なのです。

ただ、いくら下書きといっても、むやみやたらに書き進めるのは非効率です。どこに向かうかを明確にするために、最初に「骨格」を決める必要があります。

文章の骨格として、まず以下の4つを書き出してみましょう。

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①ターゲット
「誰に読んでもらいたいか」「誰なら喜んでくれるか」を決めます。この記事なら「書くのが遅くて悩んでいる20~40代」という感じで、悩みやニーズ・年代を大まかに設定します。

② テーマ/読み手のゴール
「主題は何か」「この文章を読むことで何を得られるか」を決めます。この記事なら「下書きを用意することで、書くスピードが上がる」というイメージです。

③ 仮タイトル
仮のタイトルをつけましょう。クオリティは気にせず、「ターゲット」と「テーマ」をただ置くだけでOKです。

④ 構成(見出しづけ)
3に基づいて、「見出し」を付けます。この記事なら以下のようにしました。

・ はじめに
・ 下書きが必要な理由
・ 下書きを用意する方法①
・ 下書きを用意する方法②
・ 下書きを用意する方法③
・ まとめ

(各表現は、具体化してもOKです。ちなみに、構成の段階では「3つくらい方法があるといいな」と思っていたのですが、下書きを準備するなかで2つに減りました)
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「ターゲット」「テーマ/読み手のゴール」「仮タイトル」「構成」。この4つを書いておくと、迷ったときもすぐ立ち返れるので、結果的に文章が速く仕上がります。

骨格づくりのポイントは、仮でもいいので決めること。クオリティは気にしないでください。後からいくらでも変えられるので、まずは仮置きすることを意識しましょう。

あとは「1つの見出しにかける時間」を決めます。5分でも10分でもいいですが、長く時間をかけたからといってクオリティが上がるとも限らないので、最大30分を目安に設定するのがいいでしょう。

もし時間内に書ききることができなかったら、強制的に次の見出しに進んでください。頭を切り替えて、次の問題に挑むイメージです。

ただし、ここで2点意識してほしいことがあります。

1つめは、調べ物は後回しにすること。書くのを止めて調べ始めると、往々にしてリズムが崩れ、集中できなくなります。気になったところは赤字で「要リサーチ」などと書いておき、まずは自分の中から出てきた言葉を書き溜めてください。

2つめは、仮タイトル(「ターゲット」と「テーマ/読み手のゴール」)は常に頭の片隅に置いておくこと。ここを忘れると、書き進める方向を誤ってしまうこともあります。

下書きができたら、あとは削除して整理していきます。
大江健三郎も「消すことによって書く」という名言を残していますが、書くのが遅い人は「書く=書く」と文字どおり考えるのではなく、「書く=書いて消す」と認識を変えてみてはいかがでしょうか。

ぼくは若いころ、このやり方で書くスピードが上がりました。ぜひ試してみてください。

庄子 錬(しょうじ・れん)
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。

※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。