編集者が教える「文章フィードバック」のコツ
20万部のベストセラー、200冊の書籍を手がけてきた編集者・庄子錬氏。NewsPicks、noteで大バズりした「感じのいい人」の文章術を書き下ろした書籍『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』(ダイヤモンド社)を上梓しました。
実は、周囲から「仕事ができる」「印象がいい」「信頼できる」と思われている人の文章には、ある共通点があります。本書では、1000人の調査と著者の10年以上にわたる編集経験から、「いまの時代に求められる、どんなシーンでも感じよく伝わる書き方」をわかりやすくお伝えしています。

「部下の文章が読みづらい……」そんなとき、デキる上司はどう指摘する?Photo: Adobe Stock

相手が前向きに修正してくれる3つのポイント

こんな経験はありませんか?

部下の書く文章が読みづらく、社内外とのコミュニケーションに不安がある。
部下を傷つけないようにやんわり指摘するも、うまく伝わらず、いっこうに改善されない――。

そこで今回は、編集者として数々の著者に文章フィードバックしてきたぼくが、相手に嫌な印象を与えず、かつすぐ改善につながる「文章フィードバックのコツ」を3つ紹介します。

コツ①「文章を否定しない」

1つめは「文章を否定しないこと」。

文章を否定することは、着こなしやヘアスタイルを否定するようなものです。人によっては自分そのものが否定された気持ちになります。

たとえ読みづらい文章だったとしても、「意味がわからない」「社会人何年目?」などと否定するのは絶対NG。「ここをこうすると、もっとよくなると思いますよ」という、あくまでクオリティを上げるための視点で指摘することが大切です。

コツ②「修正指示は具体的に」

2つめは「修正指示は具体的に」です。

文章フィードバックの際、こんなふうに伝えている上司は意外と多くいます。

「いやいや違うって。もっと良い感じにできるでしょ」
「んー。なんか全体的にパッとしないから、考え直して」
「もっとインパクトのある書き出しにしてみて」

ただ部下としては、こんな指摘をされても「どこをどう修正したらいいか」がわからないですし、そもそも「なぜ修正が必要なのか?」も判然としません。

修正指示をするときは、次の「3点セット」で伝えるようにしましょう。

・修正する箇所
・修正する方向性
・修正が必要な理由

たとえば、以下のイメージです。

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●第2段落には、直近の具体例があると部長も腑に落ちると思います。A社の事例を追記してください。

●文章がやや長いので、1つの文章で「1メッセージ」を心がけてみてください。たとえば、この部分はこう直します(実際に修正例を書く)。同じ感じで、ここ以降の文章も一文を短くする方向で修正してみてください。
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ここでも「①文章を否定しない」を心がけてください。否定するのではなく、「ここを直すとより読みやすくなりますよ」という視点でアドバイスする姿勢が大切です。

コツ③「長文での指摘は【文章】ではなく【口頭】にする」

3つめは、「長文で注意や反省を促すときは口頭で伝える」です。

フィードバック文を長々と書くのには時間がかかりますし、読むほうも苦痛です。
それに、文章は「残り続けるもの」。とくに仕事でのメールやチャットは削除しにくい。ふとしたときに目に入って再びイヤな気分になることもあります。

上司としては「よし。これで部下も改善してくれるはずだ」と思っているかもしれませんが、往々にして部下は、自分の文章に対する注意や反省を促す文章を目にした瞬間、ネガティブな感情に支配されます。それが長文ならなおさら。最後まで読み進める気力を失ってしまう人もたくさんいるでしょう。

ドキュメントデータの該当箇所にコメントする分にはいいのですが、そのあと同じようなことを長々とメールやチャットで書くのは避けましょう。

相手にきちんと理解してもらいたいなら、文章ではなく口頭で伝える。そうしたほうが相手の表情や仕草から、理解度や受け止め方を確認しつつ、言葉を選んで伝えられます。

一方的に長文の注意事項を送りつけるのではなく、対話を通じて部下の成長を後押しする。

それこそが、上司に求められるフィードバックのあり方だと思います。

とはいえ、口頭で伝えた内容はすぐに忘れてしまうもの。話し合った内容はメモを残しておきましょう。

庄子 錬(しょうじ・れん)
1988年東京都生まれ。編集者。経営者専門の出版プロデューサー。株式会社エニーソウル代表取締役。手がけた本は200冊以上、『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(22万部)など10万部以上のベストセラーを多数担当。編集プロダクションでのギャル誌編集からキャリアをスタート。その後、出版社2社で書籍編集に従事したのち、PwC Japan合同会社に転じてコンテンツマーケティングを担当。2024年に独立。NewsPicksとnoteで文章術をテーマに発信し、NewsPicksでは「2024年、読者から最も支持を集めたトピックス記事」第1位、noteでは「今年、編集部で話題になった記事10選」に選ばれた。企業向けのライティング・編集研修も手がける。趣味はジャズ・ブルーズギター、海外旅行(40カ国)、バスケットボール観戦。

※この連載では、『なぜ、あの人の文章は感じがいいのか?』庄子錬(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集して掲載します。