「資源がない、土地がない、でもめちゃくちゃ豊か」→シンガポールのすごい秘密
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

「資源がない、土地がない、でもめちゃくちゃ豊か」→シンガポールのすごい秘密Photo: Adobe Stock

シンガポールの「すごい秘密」とは?

 シンガポールは1人当たりGDPが7万8115ドル、1人当たりGNIは6万5541ドルで、これはともに日本よりも高い数値です。

 この指標を見てもわかる通り、シンガポールは立派な先進国です。では、シンガポールのどこに強みがあるのでしょうか?

日本と同じ資源小国

 シンガポールの国土面積は東京特別区(23区)と同じくらいで、非常に狭い都市国家です。そのため鉱産資源には恵まれず、農耕地も広くとることはできません。さらに山がないので、流れ出る河川がほとんど見られず(河川は高いところから低いところに向かって流れる)、水資源に乏しい国です。

「資源がない、土地がない、でもめちゃくちゃ豊か」→シンガポールのすごい秘密出典:『経済は地理から学べ【全面改訂版】』

 水資源はマレーシアからの輸入に依存しています。一方、北緯1度とほぼ赤道直下に位置しているため、台風の影響をほとんど受けないという特徴もあります。台風の影響を受けやすいフィリピンなどでは、台風の度にインフラが壊され、多くの人命が奪われてしまいます。

 これはとても大きな経済的打撃です。台風の被害を受けないこと、これがシンガポールに与えられた「土台」といえます。

 シンガポールは、第二次世界大戦中は日本の占領地でした。戦後はイギリスの植民地支配に戻り、その後1963年にはマレーシア連邦を形成します。

 しかし、マレー人優遇政策を進めるマレーシア中央政府と、平等政策を進めたい人民行動党との間で対立が生じます。1965年、マレーシア連邦から追放される形で、シンガポールは独立します。それから6年後、マレーシアでは正式に「ブミプトラ政策」としてマレー人優遇政策が進められていきます。

キーワードは「みんな仲良く」

 土地がない、資源がない。そんなシンガポールは、独自の成長戦略を描いていきます。シンガポールは国民の4分の3が中国系です。しかし中国系を優遇するような政策はありません。

 中国系以外のマレー系、タミル人(インド系)を平等に扱います。具体的には、中国系が話す中国語、マレー系が話すマレー語、タミル人が話すタミル語のすべてを公用語に制定しました。依怙贔屓はしないということです。

「資源がない、土地がない、でもめちゃくちゃ豊か」→シンガポールのすごい秘密出典:『経済は地理から学べ【全面改訂版】』

 主要民族の言語をすべて公用語にしたため、民族対立はほとんどなく、非常に政情が安定した国です。また英語も公用語として制定されています。これは、それぞれ母国語が違う国民同士の共通の言語として広く話されているからです。「みんな仲良く」が国是なのです。

 英語が公用語、そして政情が安定している。これは、海外からの投資を呼び込むのに十分すぎる条件です。

 そのためシンガポールでは、民族問題にすごく敏感で、民族対立を煽るような言論は法律で厳しく取り締まられます。

政情は安定したが、資源がない

 政情を安定させたシンガポールでしたが、とにかく狭いのです。何せ東京特別区とほぼ同等ですから。シンガポールは狭い国土を開発したため、原生林はほとんどありません。経済成長すれば就業機会は増えます。結果、可容人口は大きくなりますが、さすがにこれだけ狭いとすぐ飽和状態になります。

 それだけ狭い国ですから、農業はほとんど行われていません。主要輸出品目の中に農産物はありません。日本がシンガポールと経済連携協定を結べた背景はこれです。国土が狭いがゆえに、鉱産資源の埋蔵はほとんど見込めない。しかしまわりを見渡せば、インドネシアやマレーシア、ブルネイといった産油国があります。シンガポールは原油を輸入し、石油製品に加工して輸出する。こうした加工貿易に特化したのです。

「資源がない、土地がない、でもめちゃくちゃ豊か」→シンガポールのすごい秘密出典:『経済は地理から学べ【全面改訂版】』

 またシンガポールは税率が低い国としても有名です。税制上の優遇措置もあり、外国企業の誘致に大いに効果がありました。

シンガポールの資源は「人間」

 シンガポールの資源は「人間」ということです。スウェーデンもそうでしたが、人口が少ない国の経済成長において、人材育成は最優先課題なのです。

 それゆえに政情の安定を作り出すことが重要でした。政情が安定し、観光業や金融業が発達しました。もちろん台風が来ないことも経済発展の要因の1つでしたね。シンガポールは、「みんな仲良く」を国是として経済成長を遂げてきたのです。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)