人生の転機で何度も読み返したい大切な1冊――アメリカで大きな反響を呼び、多くの人の心を動かした話題作『Master of Change 変わりつづける人』。この本が教えてくれるのは、1つの軸に執着するのではなく、変わりつづけることこそが「自分らしい人生」を形づくるという、しなやかで力強い生き方の哲学だ。
人生は変化の連続。それでも、変わることに戸惑い、現状にしがみつこうとしてしまうのが人間だ。けれど本書は、変化と安定をどうバランスよく受け入れ、自分らしい生き方を築いていくかを、リアルな体験とともに教えてくれる。本稿では、本書から一部を抜粋し、アメフト選手から俳優へと転身を遂げたテリー・クルーズのエピソードを紹介する。「今の自分を変えたい」と少しでも思ったら、この本を手に取ってほしい。人生を動かすヒントが見つかるはずだ。

いまの世の中「一貫したキャリア」は“安定”ではなく“停滞”かもしれないPhoto: Adobe Stock

キャリアの転機で、どんな道を選ぶか?

 テリー・クルーズはミシガン州フリントで生まれ育った。

 子どもの頃はずっと絵画が大好きだった。8歳になる頃にはすばらしい油絵を描くだけでなく、フルートも吹けた。

 中等学校を通してこの2つで才能を発揮した彼は、ミシガン州北西部にある有名な全寮制学校〈インターロッケン・芸術高校〉の奨学金を獲得した。

 最終的にクルーズはその学校に入学しなかったが、それは彼がアメリカンフットボールもうまかったからだ。

 実のところ、この表現は控えめすぎる。群を抜いてうまかったのだ。

 そんなわけで、彼はごく普通の高校に残って、アメフト競技場で大成功を収めた。

 その後、クルーズは2つの奨学金――芸術と陸上競技の奨学金を一つずつ――をもらってウェスタン・ミシガン大学に進学した。

 カレッジフットボール界で輝かしい成績を残し、1991年にNFLのドラフトで、ロサンゼルス・ラムズから指名を受けた。

 同チームに入団後は、ラインバッカーとして敵にタックルするかたわらで、チームメートの似顔絵を描くなどして芸術的な感性を維持した。

 7シーズンを根気強く戦った末の1997年、クルーズはアメフトを引退した。

 当時の彼はフィラデルフィア・イーグルスでプレーしていたが、妻と話し合った末にロサンゼルスに帰ることを決断したのだ。

全く新しいキャリアへの挑戦

 ロサンゼルスへ戻ると、クルーズは俳優に転向してキャリアを積みたいと考えた。

 彼にとって不運だったことに、ショービジネス界の重役たちは、彼のアメフト選手という経歴が強みになるとは思わなかったようだ。

 1年間オーディションに落ち続けたあと、クルーズは工場の床掃除をしたり、ナイトクラブで警備員として働いたりした。

 多くのアスリートと同様、スポーツ選手からのキャリア転換は容易ではなかった。

 アメフトのスター選手から、ただの男になったのだから。

「自分はこの程度の人間だったのか(と気づいた)。

 アスリートとして有名になり、多くの人に知られていたのに、突然、人生を再構築しなければならなくなるのだから。

 ……とても奇妙な経験だったね。まったく異なる人生を構築することは」

 と彼は語っている。

意志あるところに道は開ける

 1999年、ナイトクラブの関係者から、新しいテレビ番組『バトル・ドーム』のオーディションが開催されると聞きつけた。

 プロレスみたいな番組で、プロのアスリート体型の彼にとってはうってつけの役割に思えた。

 果てしなくオーディションを受け続ける日々が終わり、ようやくクルーズは役を射止めた。

『バトル・ドーム』後もオーディションを受け続けた彼は、映画の端役に出演して新しい人脈を築いた。

 ゆっくりだが確実に俳優としてのキャリアが軌道に乗り始め、『最凶女装計画』、『ロンゲスト・ヤード』、『Everybody Hates Chris』、『26世紀青年』、『アメリカズ・ゴット・タレント』、『ブルックリン・ナイン─ナイン』といった映画やテレビ番組で役を勝ち取っていった。

いつからだって、新しい自分に変わることができる

 あきらめずに挑戦し続けて現在のハリウッドでのポジションを確保できたのは、アメフト選手として身につけた忍耐力のおかげだと彼は述べている。

「ぼくがエンターテインメント業界をめざすなんて、ちょっと不思議な気がするよ。

 でもアメフトでのキャリア、浮き沈み、いろいろな面で苦労したことでエンタメ業界に入るための準備ができた。

 オーディションで落ちても、自分を否定されたわけじゃないと認識して、再チャレンジできたんだ

 とクルーズは語る。

「NFLで7年間プレーしたことが、ハリウッドに進出する準備段階になった。

 これは本当だ。立ち直るためには、パンチの受け方を学ぶ必要があるということなんだ」

※本稿は『Master of Change 変わりつづける人』の内容を一部抜粋・編集したものです。