アメリカでベストセラーとなり、多くの絶賛の声を集めた『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』が日本に上陸した。著者のブラッド・スタルバーグはマッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者。変化の激しい時代を生き抜くために、必要なのは「適応力」だと言われる。しかし、私たちはしばしば思考のクセに縛られ、知らぬ間に自分の可能性を狭めてしまっている。本書は、そんな思考の硬直を解きほぐし、柔軟な視点を持つためのヒントを与えてくれる。この記事では、そのエッセンスを紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

心を消耗させるNG思考、無意識にストレスをため込む人の「頭のクセ」Photo: Adobe Stock

アイデンティティを1つに縛らない

 目覚めた瞬間から眠りに落ちるまで、頭の中は仕事で埋め尽くされている。仕事の成果や役割がそのまま“人としての価値”だと思い込むあまり、心も時間も仕事一色になってしまう。

 特に専門的な仕事をしているほど、この“仕事=自分”の呪縛は強い。

 マッキンゼー出身でウェルビーイング研究の第一人者であるブラッド・スタルバーグはそのマインドを危険視している。

 スタルバーグの最新刊『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』で強調されるのは、「アイデンティティを1つに縛るな」というメッセージだ。

大切な人や活動、プロジェクトに誠意を尽くすことは、豊かで意義のある生活を送るための重要なかぎとなる。

問題は誠意を尽くすことではない。一つのものや努力している活動に執着するあまり、それがアイデンティティになってしまうことだ。

何かをとことん突き詰めたいと思うのはいいが、やりすぎてはいけない。

(P.138)

 仕事で良い結果を出せた日は気分が高揚し、ミスが続くと自己嫌悪に沈む。このジェットコースターのような心の揺れは、「仕事」というたった1本の柱で自分を支えようとしているから起こる。

 柱がぐらつけば心も一緒に揺れてしまうのだ。

 本書は、1つの役割だけに自己を預けるほど、うつ病や燃え尽き症候群のリスクが高まると警鐘を鳴らす。

 歯車が噛み合わなくなった瞬間、「自分には価値がない」と錯覚してしまうからだ。

 では、どうすればよいのか。

 スタルバーグは、アイデンティティは流動的であるべきだと強調する。

 複数のアイデンティティを持っていれば、どれかが揺らいだとしても“別の私”が支柱となり、心をしなやかに支えてくれると、スタルバーグは述べている。

 たとえば、昼間はエンジニア、夜は家族の料理担当、週末は地域のバスケットボールチームのコーチ。そんなふうに複数の流動的なアイデンティティを持つだけで、自分が1つの場所に依存しなくなる。

長期にわたって結果を出し続ける人の共通点

 変化の激しい時代に、自分の仕事や業界が10年後も同じ形で残っている保証はない。「これが私だ」と固執すること自体がリスクとなる。

 一方、アイデンティティが流動的な人は、環境の変化を追い風にできる。

健康で高いパフォーマンスを維持している個人は、(中略)自分自身を何度も再構築することで、強くて耐久性のあるアイデンティティを維持しているのだ。

(P.27)

 本書が訴えるのは、「自分らしさ」への固執を手放し、時代や状況に合わせてアイデンティティを自由に再構築する生き方だ。

「これが私だ」と決めつけず、柔軟性を武器に自分の生き方を更新し続ける。それこそが、心身ともに健やかに働き続けるための最強戦略だ。

※本稿は『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より一部を抜粋・編集して構成しました。