「このやり方で通用すると思っていたのに、うまくいかない」。異動、転職、職場の方針転換など、これまでの自分のスタイルが通じなくなる場面は少なくない。そんな時に結果を出せる人と、戸惑う人がいる。その違いはどこにあるのか。そのヒントが、アメリカでベストセラーとなった一冊に詰まっている。『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』は、変化が激しい時代をどう生き抜くかを、科学的な知見と実例で解き明かす話題の書だ。本稿ではその内容をもとに、「変化に強い人」が密かに持っている思考と習慣を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「うまく順応できない……」は、あなたのせいじゃない
異動や転職、新しい上司やチームとの関係づくり、職場の方針転換、仕事の進め方の急な変化。そんな時に、「なんだかうまく順応できない」「まわりのスピードに置いていかれそう」と感じたことはないだろうか。
実は、こうした“変化への戸惑い”の背景には、変化を避けて安定を求めたがる心理的傾向が大きく影響している。
固定された「自分らしさ」が、あなたを苦しめることもある
スタルバーグは、本書の中で20世紀に活躍した心理学者ジェーン・レヴィンジャーの研究を取り上げている。
自我は一度確立されると固定されるものではなく、環境や経験によって柔軟に変わっていく。むしろ変わっていかなければ、人生の節目で必ず行き詰まる。
これは、仕事や人間関係、ライフステージの変化にも直結する重要な視点だ。
レヴィンジャーの自我の成長段階がすぐれていると評価するのには、2つの理由がある。
1つ目は、人間の自己認識は静的ではなく動的である──レヴィンジャーの言葉を借りるならば、「自我は展開しているプロセスだ」と認識していることだ。
2つ目は、自我の各段階はうまく機能するものの、やがて壁にぶち当たることだ。
自我の成長モデルの展開をまとめると次のようになる。
人間は、独自の強い自己認識を発達させてそれに依存することで生き残る。だが、年を取って知恵を身につけると、少なくとも特定の状況においてその独自の強い自己認識が邪魔になり始める。基本的な欲求を満たしてくれる人や、世話をしてくれた人たちから健全な距離をおいたり、危険から我が身を守ったりするのに役に立っていた自我が、孤独や不安や実存的苦悩をもたらすのだ。
とすると一番重要なスキルは、現在の自我の発現が自分の役に立つ時はそれを認識し、役に立たない時はそれを捨てることを学ぶことだ。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
つまり、変化に強い人とは「一度つかんだ自分らしさ」に固執せず、必要に応じて柔軟に自我の形を変えられる人だ。
これまでの成功体験や信念にすがることなく、自分をアップデートしつづける。そのためには、固定された自己イメージから自由になる“しなやかさ”が求められる。
変化に強い人は、「自分をつくり直す」習慣がある
幸せで健康で高いパフォーマンスを維持している個人や組織は、このパターンを経験する。自分自身を何度も再構築することで、強くて耐久性のあるアイデンティティを維持しているのだ。
──『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』より
変化の激しい時代において、「ずっと同じ自分」でいつづけることのほうが、むしろリスクなのかもしれない。
自分らしさにこだわるよりも、状況に応じて自分を少しずつ“再構築”できる人こそが、これからの時代をしなやかに、そして強く生き抜いていけるのだ。
本書は、そうした「変わりつづける力」を、実践可能な習慣として教えてくれる。自分を縛っていた思い込みを手放し、一歩踏み出すためのヒントが詰まった一冊だ。
※本稿は『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の内容を一部抜粋・編集したものです。