尿中の水分を再吸収する腎臓の尿細管の細胞には、このアデノシンA1受容体が発現しています。そのためカフェインを飲むと、このアデノシンA1受容体が阻害されてしまうため、尿中の水分吸収が抑制され、尿が近くなるのです(注4)。
コーヒーやお茶を飲むとトイレに行きたくなるのは、カフェインが腎臓の水分再吸収の機能を抑制するためです。
このアデノシン受容体の遺伝子には、先ほどのCYP1A2遺伝子と同様に遺伝情報を担うDNAの塩基配列の中の1個の塩基が個人によって異なる場合があります(注5)。このような1個の塩基が他の塩基に置き換わってる場合を1塩基多型と呼び、私たち一人一人の顔や体、さらには能力といったものに違いが生まれます。
つまり、一塩基多型によってアデノシン受容体のアデノシンに対する感度は、人によって大きく異なります。この感度の違いが、個々人におけるカフェインの作用の違いを引き起こしているのです。
飲み過ぎは死に至る場合も…
カフェイン過剰摂取に注意
コーヒーやお茶などカフェインを含む飲み物を摂取すれば認知症の予防にも役に立つといった研究成果も報告されています(注6)。
一方で、イギリスの37歳から73歳までの人を対象に行った疫学調査では、コーヒーを1日6杯以上飲む人は、認知症や脳血管疾患のリスクが約53パーセントも高まると報告しました(注7)。
国内では、エナジードリンクを日常的に大量摂取していた男性が亡くなるという痛ましい事故も起こりました(注8)。
カフェインの過剰摂取は、中枢神経系の刺激によるめまいや不安、興奮、震えや不眠、さらには心拍数の増加、下痢や吐き気、嘔吐(おうと)などの消化器症状といった健康被害を引き起こすことがあります。そして、場合によっては前述のように死に至ることもあります。
これまで述べてきたように、「カフェインには、覚醒効果、記憶増強、運動パフォーマンスを高めるといった作用がある。だからカフェインを摂れば摂るほど、これらの有益な作用が高まる」という考えをもつ人が多いのかもしれません。
しかし、実際にはそのようなことはなく、カフェインを適量を超えて摂取したとしても、有益な作用をさらにもたらしてくれるわけではありません。
(注5)Retey, J. V. et al., Clinical Pharmacology & Therapeutics, 81:692-698, 2007.
(注6)Ali, Y. O. et al., Scientific Reports, 7:43846, 2017.
(注7)Pham, K. et al, Nutrition Neuroscience, 25:2111-2122, 2022.
(注8)「国内初、カフェイン中毒死 エナジードリンク日常的に大量摂取か」2015年12月12日『産経新聞』