5. 制度・環境的要因に基づく言い訳
「ルールが非合理的だった」「環境が整っていなかった」といった言い訳は、組織の制度や慣習が現場の実態に合っていないことを示している可能性がある。ルールが目的と手段を取り違えて形骸化している場合や、手順が過剰に複雑で運用負荷が高い場合など、このタイプの言い訳は制度疲労のサインでもある。

「この制度は現場に合っているか」「運用の見直しが必要ではないか」といった問いが、組織全体の刷新に結びつく可能性を秘めている。

6. 信念・価値観要因に基づく言い訳
最後に、「納得できなかった」「自分の信条に反する気がした」といった言い訳は、内発的動機や倫理的感覚と業務との不一致を示すものである。このタイプは最も扱いが難しいが、同時に最も深い内省と対話を要する領域でもある。

「個人の価値観と組織の目的にズレがなかったか」「判断基準や目的は十分に共有されていたか」といった問いを通じて、理念の再確認と合意形成の必要性が見えてくる。

 このように、言い訳を構造化することで、それぞれの背後にある人・組織・制度・価値の歪みやずれが明らかになる。そしてそれは、「どうしてこうなったのか」を超えて、「どうしたらもっと良くなるのか」という視点へと、自然に移行していく。

 つまり、言い訳は未来への改善提案の種なのである。言い訳をただ言葉のままに切り捨てるのではなく、分類し、問いを立て直し、共有と再設計の素材にすること。それが、「ちゃんと言い訳してね」の真の意味であり、組織と個人の新たな学習の起点となる姿勢なのだ。

「ちゃんと言い訳してね」は信頼と対話の呼びかけ

「ちゃんと言い訳してね」は、単に言語の置き換えではない。関係のあり方を変える呼びかけである。

・「言い訳するな」は、相手の語りを封じる言葉
・「ちゃんと言い訳してね」は、語ること、考えること、共有することを促す言葉

 この言い換えのなかに、「あなたの感じたことには意味がある」「あなたの言葉の中にヒントがある」と伝える深い承認と期待が込められている。これは個人だけでなく、組織全体の心理的安全性を高めるメッセージでもある。

 ただ、実際の場面における言い訳は、無責任で未熟な人間によって発せられる、到底歓迎できない言葉であることも多いだろう。しかし、その人なりの感情があり、観察があり、現場のリアルがある。上手に聞いて誘導していけば、客観的理解の世界が広がるとともに、当人にも再出発への意志が生まれてくるだろう。

 私たちは言い訳を封じるのではなく、言語化し、整理し、提案へと昇華させる文化を持つことができると思う。そうすることで、失敗は今よりもずっと大きな意味を持ち、経験は現状を改善する力になるはずだ。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)