素顔、化粧途中、化粧が崩れた顔…
吉沢亮の「顔面シーン」がこれでもか

 演技ではなくルックスを取り上げるのは憚られる気もするが、李監督自身が吉沢亮と横浜流星をキャスティングした理由について冗談まじりに「顔が美しいからです」と答えている(上海映画祭のQ&Aセッション)。これは画面を見れば納得である。

『国宝』は、原作・吉田修一×李監督作品として『悪人』(2010年)、『怒り』(2016年)に続く3作目となる。共通するのは、俳優の顔のアップが多く、また顔の正面から撮るシーンも多いことだ。溢れる感情をほぼ表情のみで表現することが求められ、演じる側にとっては厳しく、またやりがいのある仕事だっただろう。

『国宝』ではとにかく吉沢亮の顔面のシーンが多い。素顔、女形の化粧をした顔、化粧途中の顔、化粧が崩れた顔、どれもが画面映えする。

 端正な顔に鬼気迫る熱量がプラスされ、いつまでも見ていたいと思うほどである。歌舞伎への情熱とそれ以外への諦めを、見事なまでに演じ尽くしている。もちろん、歌舞伎の舞台上であるという魔力もある。間違いなく、吉沢亮の代表作となるのだろう。

 喜久雄の父を永瀬正敏、人間国宝である歌舞伎役者を田中泯、幼馴染・春江を高畑充希、俊介の母を寺島しのぶといった安定力のあるベテランが演じている。いずれも佇まいや一言の発声だけで存在感がある。

 吉沢亮の少年時代は『怪物』(2023年・是枝裕和監督)で主役に選ばれた黒川想矢で、物語の導入部分で鮮烈な印象を残す。

 喜久雄を取り巻く女性は、京都の芸妓・藤駒を三上愛、歌舞伎の家に生まれた彰子を森七菜といった旬の若手が演じる。