
「白い巨塔」といえば医学界の腐敗をテーマにした山崎豊子の長編小説だが、検察はいったい何色の巨塔になるのだろう。女性検事が告発した大阪地検の元トップによる性犯罪事件は、検察組織の隠蔽体質を疑わせる大事件になりつつある。(フリーライター 鎌田和歌)
生々しい直筆書面が明らかに
5月21日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で、ひかりさん(仮名)が弁護士や支援者とともに会見に臨んだ。
彼女は大阪地検の現役女性検事であり、かつて大阪地検の「トップ」と言われた北川健太郎元検事正からの性犯罪被害を告発した。これまでも大阪や東京の司法記者クラブで会見が行われてきたが、この日は北川被告から事件後に送られた「口止め」とも思える内容の直筆文書が公開されたこともあり、各社が続々と報道した。
直筆書面があることはこれまでもひかりさんが明らかにしていたが、実際に公開された内容は生々しく、一部非公開とされた部分も含めて計6枚の長文だった。
「仮の話ですが、あなたから『今回のことを胸にしまっておく』と言われたら、私は喜んで死ぬことができます。」
「今後の償いですが、私が生かされるのであれば、できる限りのことをさせていただきたいと思っております。しかしながら、ご主人に本件を打ち明けて弁護士を依頼するという件は何とか思い止まっていただけないでしょうか。」
こういった内容を絶対的な権力を持つ上司から送られたひかりさんが、すぐに被害を告発することができなかったのは当然だと感じられる。
これまでの会見内容からも、彼女が検事の仕事に強い思い入れがあったことはうかがえる。他の同僚たちが仕事をしづらくする状況は招きたくない、けれど……という、そのような葛藤があったのではないか。