興行を取り仕切る会社の社員を三浦貴大、喜久雄の母を宮澤エマが演じる。三浦貴大は大スターを両親に持つ「二世」、宮澤エマは元首相の孫にあたる「三世」であり、二世であるか否かが筋の根幹にある本作のキャスティングとして面白いし、それぞれの演技も光る。特に三浦貴大については、この人にそのセリフを言わせるのかと思う場面があった。
また、どの場面に登場するのかは見てのお楽しみだが、近年活躍の目覚ましい瀧内公美が忘れ難いシーンで登場する。
ここからはネタバレとなるので、未見の方はご注意をいただきたい。
芸に打ち込んだゆえの
孤独と美しさ
映画は1960年代の長崎に始まる。正月の宴席、女形に扮する喜久雄の余興で盛り上がる中、抗争相手が乗り込んで喜久雄の父・権五郎が撃たれる。雪の中で倒れる父の姿を喜久雄はその目で見ることになる。まだ10代半ばである喜久雄は友人と2人で銃と刀を持って仇を討とうとするが、これは失敗する。
その後、立花半二郎の家に引き取られた喜久雄はめきめきと才能を伸ばし、半二郎の跡取りである俊介を凌ぐほどになる。あるとき、半二郎が喜久雄に言う。芸は銃や刀より強く、芸を極めることで仇を討てるのだと。
時を経て、喜久雄が演じる「鷺娘」が雪の中で倒れる。喜久雄が舞台から何を見ていたのか、このときになってわかる。役者をずっと見ていたい観客と、舞台の上からある景色を見ている喜久雄。芸に打ち込んだゆえの喜久雄の孤独と美しさが圧巻である。
上方歌舞伎の当主を演じ、役者への歌舞伎指導も行った中村鴈治郎は、公式サイトで「この映画を通して、歌舞伎を知らない方には、歌舞伎ってこういうものなのかと感じてほしいですし、歌舞伎を観たことのある方には違和感なく、作り事でもなく、自然に観ていただければ一番いいな、と思っています」とコメントしている。
実際、この映画を見て初めて歌舞伎を見に行こうと思う人もいるだろうし、歌舞伎を愛する人も満足する作品になっていると感じる。大人による大人のための極上のエンタメである。