「“鯉取りまーしゃん”は、筑後川で有名な鯉取りの名人だ。まーしゃんは、鯉を素手で何匹も捕まえることができるんだぞ!」
そう言われても、私はチンプンカンプンで、孫さんがまた突拍子もないことを言い出しちゃったよ…と、正直トホホな気持ちでした。しかし、孫さんは私の心情などお構いなしに続けます。
「どうやって鯉を捕まえるか。まず、冬の寒い朝に川辺で焚き火をして、体に油を塗って温める。そして、筑後川に潜る。川底には窪みがあって、そこが鯉の巣になっている。寒いと鯉はその巣でじっとしている。その横にそっと寄り添うんだ。すると、鯉は人体の温もりを感じて擦り寄ってくる。そこをグッと捕まえるんだ!」
まーしゃんとは九州の方言で『まさおさん』を表します。この“鯉取りまーしゃん”は実存する人で、福岡県久留米市田主丸町の上村政雄さん(1913–1999)のこと。“鯉取りまーしゃん”の愛称で知られた、川魚漁法「鯉抱き漁」の伝説的な名人でした。彼が1日に100匹以上の鯉を素手で捕獲する様子を見るために、筑後川沿いに行列ができたと言われています。ちなみに現在も縁者の方が経営する「鯉の巣本店」という川魚料理店があり、鯉や鮎の料理を提供しているそうです。
孫さんは、目を白黒させている私に向かって、「この“鯉取りまーしゃん”のやり方が、交渉の秘訣なんだぞ」と締めくくりました。
当時の私はすぐに理解できませんでしたが、実際に孫さんの横にいると、本当にさまざまな人と会って話をしながらビッグビジネスをものにする様子を目の当たりにしてきました。
この“鯉取りまーしゃん”戦法をビジネス現場で使える手法に発展させると、(1)交渉相手を徹底的に調べる(2)相手の立場になって考える(3)相手にとって何が得か、自分が提供できる価値を見極めて最大限のオファーをする、にまとめられます。
具体例を考えてみましょう。なぜ、ソフトバンクはApple社のiPhoneを日本で独占販売できたか。