このとき、組織の視点を揃える軸になるのがNSMです。
NSMは、「プロダクトが価値を届けている状態」を、全員が同じ目で見られるようにするための共通言語です。例えばメッセージアプリで「1週間に10人以上とメッセージを交わしているユーザーの割合」など、実際に観測可能な定量指標としてNSMを設計するのは、「ユーザーがチーム内で会話し、コラボレーションしている状態こそが、このメッセージアプリの価値だ」という仮説に基づいています。
NSMを組織全体で共有できれば、営業は「NSMに至るまでのオンボーディングがスムーズか」を、開発は「NSMの行動が妨げられていないか」を、マーケティングは「NSMに達するユーザーをどう増やすか」を考えるようになります。つまり、各部門が異なる立場から、同じ価値に向かって動けるようになるのです。
NSMの本質は、「組織が見るべき風景を揃えるコンパス」であること。売れるかどうかだけではなく、「どんな価値を誰に届けるか」を軸にプロダクトを見つめ直す。その視点を全員が持つことで、ようやくプロダクトが本来の方向に進み出すのです。
プロダクトを成功に導く
「価値のコンパス」
プロダクトの成功を「売上」だけで語る時代は終わりました。
本当に価値あるプロダクトとは、「使われ続ける」「信頼される」「再び選ばれる」存在です。その本質に迫るには、売上という「結果」ではなく、価値の「兆し」を捉える指標が必要です。
NSMは、そうした兆しを示す「価値のコンパス」です。単にプロダクトの成長を測るだけでなく、組織全体の視線を揃える共通言語としても機能します。売れるかどうかではなく、「どんな価値を誰に届けるのか」。その問いに向き合い、日々の行動と意思決定をつなぐための指標として、NSMの設計と運用がますます重要になっています。
次回はこのNSMを軸に、実際に「どのように指標を設計し、現場で運用していくか」を検討する実践編へと進みます。
(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)