例えばSpotifyでは、「TSL(Time Spent Listening:音楽を聴いている時間)」がNSMとされています。これは「一定の時間、継続的に音楽を楽しんでいるユーザーこそが、Spotifyの価値を最も実感している」という仮説に基づいています。
NSMでは「プロダクトが価値を届けているときに、ユーザーがどんな行動をしているか」に着目する点が特徴です。言い換えれば、NSMは「ユーザーが価値を感じている状態」を数字で捉えるレンズです。
【図表】NMSの例
そしてこのNSMは、単なる状態の記録にとどまりません。プロダクトの成長を左右する重要な先行指標として、KGIに至るまでの予兆を示すものでもあり、PMF(Product Market Fit:プロダクトと市場の適合)を判断するための定量的な手がかりとしても機能します。
実際にPMFを達成したプロダクトの多くでは、自然な口コミやリピート利用が発生し、NSMが安定して上昇する傾向が見られます。そのため、NSMは「PMFの達成度合い」や「その後の持続的成長の見通し」を測る羅針盤としての役割も果たします。
ただし、NSMはプロダクトごとに異なります。メッセージアプリであれば「1週間に10人以上とメッセージを交わす」ことがNSMかもしれませんし、予約サービスであれば「月内に2回以上の予約を入れている」など継続的な利用意図が見える行動がNSMとして機能するかもしれません。
大切なのは、NSMを「誰かが決めた定型指標」として受け入れるのではなく、自分たちのプロダクトの本質に立ち返って、どんな行動が「価値の実感」に直結するかを探ることです。
NSMは組織の視点を
揃える軸となる
組織の中で「何をもって成功とするか」がバラバラだと、プロダクトは迷走します。
例えば、営業部門は「売上」や「受注数」に注目し、マーケティング部門は「トラフィック」や「リード数」を、開発チームは「スケジュールどおりのリリース」や「障害ゼロ運用」を成功と捉えることがあります。それぞれが自分の業務の成果を指標化するのは当然のことですが、プロダクト全体の「あるべき姿」が共有されていなければ、部門ごとの努力がかえってズレを生む原因になってしまいます。