
ロッテホールディングスの元副会長で創業者・重光武雄氏の長男である宏之氏が近く、株主代表訴訟に踏み切ることが分かった。被告は現会長で創業者次男の昭夫氏のほか、HD社長の玉塚元一氏や取締役の古田潤氏ら5人。宏之氏が求める賠償金額144億円の内訳を詳報する。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)
“プロ経営者”玉塚氏も被告に
日韓巨大グループの実態は?
ダイヤモンド編集部の取材によると、菓子大手ロッテなどを傘下に持つロッテホールディングス(HD)元副会長の重光宏之氏が同社に対し、株主代表訴訟に踏み切ることが分かった。宏之氏は創業家の資産管理会社である光潤社と個人合わせて、HD株式の議決権29.9%を保有している。
被告は現会長の重光昭夫氏のほか、HD社長の玉塚元一氏、取締役の古田潤氏、御立尚資氏、瓜生健太郎氏、渡部一文氏ら5人。
宏之氏はロッテグループ創業者である重光武雄氏の長男で、被告の昭夫氏は次男に当たる。
創業者の武雄氏は1921年、日本統治下の朝鮮・蔚山郡(現大韓民国・蔚山広域市)で生まれた。農業高校を卒業した武雄氏は日本本土に渡り、早稲田高等工学校(現早稲田大学理工学部)で化学を学ぶ。戦後、武雄氏はチューインガムの製造を開始し、48年にロッテを設立した。
65年に日韓基本条約が結ばれた後、ロッテは韓国に進出。韓国が焦土からの高度経済成長を遂げる中で、武雄氏は積極的に投資を行い、ホテル事業から石油化学、小売りなどに事業を広げた。
日韓にまたがる巨大グループとなったロッテは、2007年に持ち株会社体制に移行した。日本のロッテHDが韓国の持ち株会社であるロッテホテルの株式の約9割を保有し、日本のロッテHDが韓国事業を間接的に支配できる形になっている。
武雄氏はロッテHDの経営を、二人の息子に託した。それが長男の宏之氏と次男の昭夫氏である。
長男・宏之氏には祖業である日本事業とグループ全体のかじ取りを、次男・昭夫氏には韓国事業を任せ、重光一族の元でロッテグループは繁栄する――。そう武雄は考えていたはずだ。しかし、実態は創業者の思いとはかけ離れた形で転がってゆく。それが明らかになったのが、次男・昭夫氏による長男・宏之氏の解任である。
15年1月、ロッテHDの取締役会は、当時副会長だった宏之氏の解任を決議。この撤回を求めた創業者である武雄氏に対しても、同年7月に代表取締役を解任し、名誉会長へと追いやったのだ。
それ以来、ロッテHDでは創業一族の権力争いの火種がくすぶり続けてきた。
ダイヤモンド編集部の取材によると、今回の株主代表訴訟の原告となる宏之氏は、昭夫氏に対して134億5325万777円を、玉塚元一氏らロッテHD取締役5人に対して9億6530万円の賠償を請求することが分かった。賠償が認められた場合、被告らは宏之氏に対してではなく、ロッテHDに対して支払いを行うという。
過去に自らを“追放”した弟に対し、宏之氏はどのような論理で責任を追及するのか。次ページでは、合計144億円の根拠として宏之氏が主張する昭夫氏の背任行為や贈賄の実額を詳報する。