しかし、患者サイドで混乱が起きていないとしても、医療サイドは頭を抱えている。

「ハイカムチンは、日本では神経芽腫の一次治療に使われていないので、患者さんレベルではまだ大きな混乱は起きていないのかもしれません。しかし、再発治療では大きな位置を占めます。私たち医療サイドも、なんとか影響を最小限に留めようと代替治療を考えています。ですが代替治療で、治療成績が担保されるとは限りません。

 効果のキレや消化器系の副作用など、悩ましい問題がいくつもあり、万が一使用できないとなると、同等の治療効果を維持するのは難しくなることは確かです」(松本氏)

もはや「ドラッグロス」
ではなく「ロスト」だ

 一方の「横紋筋肉腫」は、筋肉のもとになる細胞ががん化する病気だ。日本では年間に50~100人の子どもが発症すると言われている。全身の筋肉のあらゆる個所からできるため、さまざまな個所でかたまりを作ることで気づかれることが多い。化学療法や手術を行なっても、わずかでもがん細胞が残っていた場合、治療終了後に増殖して症状が出現したり、検査で検出されたりすることになり、「再発」する。

 完全に再発の可能性がなくなるのは何年後か、ということはまだ分かっていないため、厳密な意味で「治癒率」という言葉を使うことはできず、「長期生存率」という言葉で表現する。実際には、5年が経過して再発がない場合、それ以降に再発することは少ないので、「5年後の再発なしの生存率」=ほぼ「治癒率」と考えられている。

 たとえば「横紋筋肉腫 家族の会」の関智一共同代表のお子さんの場合、2歳の頃から精巣状態が腫れ始め病院を受診したものの、当初は「がんではない」と診断されていた。結果「1年あまり腫瘍を放置したことで腹部のリンパ節に転移をしており、初発治療を1年のVAC療法で終えた後、半年後に腹部から再発をしてしまいました。おそらく最初に見つけて迅速に治療をしていれば、こうはならなかったはずと今でも責任を感じており、親としてどこにもぶつけられない辛い感情を持ち続けています」と関氏は苦しい想いを明かす。