「子どもを優先したい妻」と「老後を守りたい夫」。どちらの主張も理解できますが、将来への見通しや優先順位がまったく噛み合っていないのが実情です。教育費と老後資金は“シーソー”のような関係であり、バランスを取ることが求められます。

 Dさんは「自分はお金をかけてもらえなかった分、子どもにはしてあげたい」という想いから、相続資金を教育費に全力投資。一方の夫も貯蓄をしてはいるものの、家庭全体の将来を見据えた使い方にはなっていない印象です。趣味への出費を少し抑えれば、家計の安定に寄与できる余地もあるはずです。

試算の結果は「70代で資金が尽きる」

 いずれにせよ、お互いが「相手がわかってくれない」と思うだけでは、本質的な問題は解決しません。

 今回、夫の社内預金の一部をNISAに移す方針とし、将来の収支を見える化するためにライフプラン表も作成しました。その結果、70代には資金が尽きるという見通しが出ましたが、Dさんの考えは変わりませんでした。家計の見直しや支出の調整も提案しましたが、具体的な行動には至りませんでした。

 数字だけを見れば破綻していない家庭でも、実際には特定の誰かに負担が偏っていたり、将来への備えが欠けていたりするケースは多くあります。

価値観の違いを乗り越える方法

 どちらか一方が「このままではまずい」と感じたら、まずはその不安を言葉にし、共有することです。そして、将来のビジョンをすり合わせることが必要です。

 家計というパズルは、どちらかが我慢して組み合わせるだけでは完成しません。「話し合える関係性」と「歩み寄る姿勢」が、何よりも大切な土台になります。

 お金の話をするのは簡単ではありません。でも、話せないまま時が過ぎてしまえば、家族の未来はどんどんブレていくのです。

 老後に困らないため、子どもに過度な依存をさせないため、そして何より、夫婦が信頼し合って生きていくために。価値観の違いがあっても、「同じ未来を見よう」と努力すること。それが、人生において最も価値ある“共通資産”になるのではないでしょうか。