え、こんなに?進学校の秀才も転校する「意外な高校」の名前『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の受験マンガ『ドラゴン桜2』を題材に、現役東大生(文科二類)の土田淳真が教育と受験の今を読み解く連載「ドラゴン桜2で学ぶホンネの教育論」。第70回は、変わりゆく「通信制高校」について考える。

少子化でも、通信制高校は増えている

 龍山高校理事長代行の龍野久美子は、高校の売却と通信制学校への転換構想を明らかにする。東大合格請負人の桜木建二は、その理由を質問するのだった。

 通信制高校の規模は拡大しつつある。文部科学省の学校基本調査(2024年度)によると、10年前と比較して、通信制のみを設置する高校数は98校から135校に、生徒数は約18万人から約29万人まで増えている。昨今の少子化事情を考慮すると、著しい増加と言っていい。

 背景の1つにあるとされるのが、不登校の増加だ。高校における不登校生徒の数は、10年前(2014年度)の約5万3000人から約6万9000人(2023年度)に増えている。

 こういった事情からか、通信制高校の生徒=何らかの「マイナスな事情」を抱えて入学した生徒、という見方を持つ人がいるだろう。たしかに、そのような学生を受け入れるという目的を持って設立された通信制高校も少なくない。

 だが一方で、積極的に通信制高校へ転校する動きも生まれつつある。

 家庭環境やキャリア志向が多様化する中で、既存の学校教育に満足できない生徒が増えつつあるからだ。

 既存の受験重視の学校教育に対して不満を感じ、もっと自由なキャリアプランを目指す生徒や、在学中から起業や研究などに取り組みたい生徒が、通信制高校へ入学・転校しているのだ。授業時間という拘束がかからず、自己実現に向かって自由に取り組めるからである。

IT企業が続々と「通信制」に参入

漫画ドラゴン桜2 9巻P137『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク

 実際、そういった生徒の受け皿となる通信制高校が次々に設立されつつある。

 その代表格が、KADOKAWA・ドワンゴが運営するN、S、R高校だ。同校は全体で3万2000人を超える生徒を有し、入学理由に関係なく、政治経済やプログラミングなど様々な分野で専門性をもった教育環境を提供している。

 2025年4月には、NTTドコモが支援する「HR高等学院」が実業家の成田修造氏らが中心となって開校された。「学校での偏差値よりも、社会での可能性を」と訴える同校は、企業との連携を生かした多様な経験の提供を強みにしている。

 私の知り合いの中でも、中学時代から会社を経営している人や、進学校で優秀な成績を修めながら学校教育に疑問を感じている人などが転入学している。

 通信制高校というと、「コミュニケーションの機会が不足してしまうのではないか」という声も多く聞かれる。

 だが、積極的な生徒たちは、通信制であるなしに関わらず、学校内外において自発的にコミュニティを作っていく。その中には年齢的・地域的・立場的に考えて、朝から晩まで授業を受けていたらおそらく出会えないような人もいる。これらを「コミュニケーション不足」と捉えることができるだろうか。

 もちろん、この動きは通信制高校の中でもごく一部であることは留意しなければならない。だが、これらを、単に「既存の学校教育とは別枠」として特別視することは、もはや不適切だ。

 既存の学校教育もまた、柔軟に対応していく必要があるのではないだろうか。

漫画ドラゴン桜2 9巻P138『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク
漫画ドラゴン桜2 9巻P139『ドラゴン桜2』(c)三田紀房/コルク