恋のピークは
新聞社

『あんぱん』はさすがに毎回は変わっていなくて、背景の夕日は一緒だが、小さなシルエットが変わっている。前の週までは夕日の道を歩いているふたり。後方の人物はもんぺ姿ののぶで、前方の嵩らしき人物の背中に手をかけているように見える。おそらく、戦争で高知が空襲にあって、その焼け跡をとぼとぼとふたりが歩いているというイメージではないかと思う。

 この表紙のように少しずつのぶと嵩が近づいていったのだ。

 ではここで、第1話からののぶと嵩の関係を振り返ってみよう。

 嵩のモデルはやなせたかしで、のぶはその妻・暢がモデルとされているが、史実ではふたりの出会いは戦後、高知新聞社に入社してからだ。そこまでの長い多感な少年少女時代のふたりの関係は『あんぱん』の創作になっている。

 高知新聞(ドラマでは高知新報)をふたりの恋のピークに持っていかないといけないものだから、ひたすらすれ違いが続いた。

 出会いは1927年、御免与駅。ふたりはぶつかる。正確には一方的にのぶが嵩にぶつかって転ばせたのだった。その後ものぶは東京から来た嵩をばかにして「しゃんしゃん東京へいね」ときついことを言うが、嵩が父(二宮和也)を亡くして叔父の寛(竹野内豊)を頼ってきたことを知ると、自分の言動を反省し、嵩をいじめっ子から守る側に回る。

 嵩がのぶに寄り添う姿勢として、最初に目を引いたのは、のぶの父(加瀬亮)・が亡くなったとき。悲しむのぶに、在りし日の父とのぶの絵を描いて差し出した。写真がまだ貴重すぎる時代、嵩の絵によって、のぶと父のすてきな一場面が記録されたのだ。

 こんなことをしてもらったら好きになりそうだが、のぶにとって嵩はあくまで幼馴染。嵩は成長するとのぶのことをまぶしそうに見つめるようになる。はじめて漫画賞に応募したときも、のぶをモデルに漫画を描いている。でも、のぶは嵩の気持ちに気づかない。

 そのうち嵩は東京の学校に行き、のぶは地元に残る。東京が楽しくて、のぶにもこの素敵な東京を見せたいと願う嵩。まわりが嵩を応援しようと地元に戻ってきたとき、海に誘ったりするが、うまくいかない。