
連続テレビ小説『あんぱん』(NHK)で、土佐弁を響かせる女性代議士・薪鉄子を演じる戸田恵子さん。アンパンマンの声でおなじみの彼女が“アンパンマンを封印して”挑んだその役には、何を込めて、どのように臨んだのか。恩師・やなせたかしとの約束、そして震災の避難所で起きた“ある出来事”まで――戸田さんが語った、静かで強い正義の物語。(聞き手・構成/ライター 木俣 冬)
トップシークレットだった
戸田恵子の出演
台本には戸田恵子の名前が最後までなかった。
「薪鉄子という役名だけで戸田恵子の名前は載せていただけなくて。とうとう最後まで私の名前はありませんでした。香盤表(誰がどのシーンに出るか書かれた表)にも名前がなく、スタジオでは外のモニターには私が映っている映像が出ないようになっていて。
実際オンエアを見ないと本当に私が出るかどうかわからないぞ?というような不思議な気持ちで撮影していました。発表になったのは、撮影が全部撮り終わった後で、各方面からたくさん連絡をいただきましたが、『頑張ってください』と言われても、もう頑張りようがなく……(笑)」
戸田さんは冗談交じりに振り返った。朝ドラこと連続テレビ小説『あんぱん』に戸田恵子が出演することはそれほどトップシークレットだったのだ。
『あんぱん』制作統括の倉崎憲チーフプロデューサーはこう語る。
「『あんぱん』の企画発表をしてから、戸田恵子さん登場への期待の声をずっと受け続け、必ずどこかでご出演いただきたいと考えておりました」
国民的人気キャラクター・アンパンマンの声を担当している戸田恵子が、やなせ夫妻を題材にした朝ドラ『あんぱん』に出ないわけがない。『あんぱん』の制作が発表になった頃から誰もが期待し、いつ出るか、どんな役なのかと心待ちにしていた。
放送がはじまると、しょくぱんまんの島本須美、ジャムおじさんの山寺宏一、ばいきんまんの中尾隆聖と続々、関係者が登場し、戸田恵子登場の期待値はぐんぐん上がっていった。