企業戦略において、今、M&Aが改めて注目を集めている。だが、VUCA時代に市場や企業に求められるM&Aは、これまでの考え方とは大きく異なる。書籍『企業変革のためのM&A』では、PwC JapanグループのM&Aに関する各領域の専門家の知見を統合知としてまとめ、日本企業によるM&Aを通じた価値向上・企業変革の実現に必要な要諦を網羅的に解説している。

新旧システムのはざまの時代
「今、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化している」「その変化に柔軟に対応しなければ生き残れない」
いつの時代においてもあらゆるビジネス書の冒頭で、常套句のように使われてきたこのメッセージも、特にコロナ禍を経た今の時代においては、これまでの社会や常識との「ひずみ」や「つなぎ目・はざま」にも逢着し、より一層生々しい実感として私たちの心に響く。
今は、企業のみならず、社会も個人も難しい時代にいる。引き続き、多くの国・地域は経済原理中心に動いているにもかかわらず、資本主義・民主主義の限界、分断の進行への危機感が語られる。その結果、経済には倫理が必要、ビジネスパーソンにはリベラルアーツが必須だと言われる。
デジタルトランスフォーメーション(DX)や生成AIを活用した生産性の向上は必要だが、働き手のウェルビーイングも重要だ。企業には長期的でサステナブルな価値観が求められる一方、四半期単位での業績に株価が変動する現実もある。組織には「多様性」が大切だが、「協調性」も必要とされる……。
今の世の中を概観すると、まさにこれまで社会を支えてきたシステムとこれから求められる新しいシステムとのはざまの時代にあると感じる。
そのような環境下での企業経営の舵取りは、これまで以上に難しくなっていると言えるだろう。
その打ち手の一つであるM&Aも同様である。