アサヒ 王者の撤退戦 ビールメーカーの分水嶺#7Photo:JIJI

国内酒類市場の先細りを見込み、ビールメーカー各社は海外市場を開拓してきた。主な手法は現地法人のM&Aで、その成否はホールディングス全体の業績を左右する。では、大型M&Aは続くのか。特集『アサヒ 王者の撤退戦 ビールメーカーの分水嶺』の#7で、アナリストはキリンの足かせとなる可能性がある子会社の問題を指摘した。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)

2025年の上期決算は
アサヒもキリンも減益

 国内ビール2強であるアサヒグループホールディングス(HD)とキリンホールディングス(HD)の上期決算は、渋い結果が並んだ。

 アサヒグループHDの2025年1~6月期の連結決算は、売り上げ収益は前年から1.4%と微減の1兆3595億円にとどまったものの、事業利益は前年同期比5.4%減の1096億円。純利益は同23.2%減の587億円となり、前期を大きく下回った。

 キリンHDも事業利益では同1.3%増の942億円となったものの、連結最終利益は同7.7%減の528億円。通期計画の最終利益である1500億円に対する進捗率は35.2%にとどまった。

 2社とも、主なマイナス要因となったのは海外酒類事業の停滞と為替の影響だ。

 アサヒグループHDの地域別の事業利益を見ると、最も落ち込んだのはアジアパシフィックだった。主にオーストラリアでのビール需要減少が響き、為替の影響を含めて、前年同期比9.9%減の374億円だった。キリンHDも事業会社ごとの事業利益を見ると、「ブラックモアズ」や「Coke Northeast」「Four Roses」などが為替の影響で大きく減少した。

 目下、国内酒類市場の縮小は確実視されており、実際にアサヒグループHDは痛みを伴う“撤退戦”に挑んでいる。国内ビール各社は、収益源を海外に求めざるを得ない状況で、足元で海外酒類事業に逆風が吹こうが、ひるんでいる場合ではないのだ。(本特集#1『【独自】アサヒグループHDが社員約400人をアクセンチュア子会社に強制転籍へ!「リストラではない」社長の言い分を入手』参照)。

 これまで各社は、M&A(企業の合併・買収)を駆使して海外市場へ参入してきた。直近では、23年8月にキリンHDがオーストラリアの健康食品メーカーであるブラックモアズを約1700億円で買収し、ヘルスサイエンス事業の飛躍の鍵となっている。

 アサヒグループHDとキリンHDにとって、今後の成長は海外M&Aの成否に懸かっている。では、2社の将来的なM&Aに向けた余力は、どちらに軍配が上がるのか。アサヒグループHDとキリンHDの海外事業を比較したところ、実はキリンの海外事業拡大には、大きな“足枷”があることがわかった。次ページで、アサヒグループHDとキリンHDの余力を分析する。