もうひとつ、暗号資産は法定通貨との交換レートが大きく変動するというのも、決済に使いにくい理由です。

 これを金融の専門用語では「ボラティリティが高い」といいます。同じ価格の商品でも、支払いに必要なビットコインの数量がコロコロ変わるようでは困ります。

 こうしたことから、ビットコインをはじめ暗号資産は少額決済に使われることはほとんどなく、緊急時の送金や資産逃避に用いられるツールとして注目され、その後は値上がりを狙った「投機」の対象(個人的には取引市場の流動性を確保する点から投機筋の存在は重要だと考えます)、そしてさらにいまは資産運用における「投資」の対象(金融資産)へと変化しつつあるのです。

世界の金融を変えようとした
メタ社の野望は失敗に終わる

 2019年のアメリカではすでにビットコイン取引の約半数が機関投資家によるものだと聞いて私は驚きました。個人投資家がほとんどであった日本の状況とはまるで違ったからです。

 ビットコインなどの暗号資産が、投資対象の金融資産に変化していくと私が考えるようになったもうひとつのきっかけは、フェイスブック(現在のメタ)が計画した「リブラ(Libra)」の発行が断念に追い込まれたことでした。

 当時はまだ、専門家の間でも暗号資産(仮想通貨)は新しい決済手段であるという認識が主流でしたが、その可能性は限りなく小さくなり、とすれば別の扱われ方、すなわち投資対象になっていくはずだと予想できたからです。

 フェイスブックは2019年6月、銀行口座がないなどの理由で金融サービスを受けられない人たちのための「世界的な金融インフラ」としてリブラ構想を発表しました。この構想にはテクノロジーや金融分野の有名企業が協力を表明し、大きな注目を集めたのです。

 しかし、欧米各国の政府はリブラが法定通貨の地位や金融システムの安定を脅かすものとして警戒し、資金洗浄(マネーロンダリング)やプライバシー侵害を懸念する声も強まりました。

 フェイスブックは当初、2020年としていたリブラの開始時期について延期を繰り返し、結局は各国政府から同意を得ることは難しいとして、同年2月に計画中止に追い込まれました。