さりとてドルに変わる基軸通貨なし
今回の米国市場の混乱は、世界の投資家にとってアメリカへの投資戦略を再検討するきっかけとなっています。多くの投資家との会話からも、アメリカ投資の一部を欧州や日本に振り向けることを検討している投資家が多いことがわかります。
これは投資家側の意向ですが、前述のとおりアメリカ自身もそれを望んでいる可能性があります。貿易赤字削減と海外投資依存からの脱却という観点では、投資家もアメリカも同じ方向を向いており、「アメリカ外し」は今後も続くと考えられます。
ただし、米ドル資産を売却して他の資産に入れ替えようとしても、適切な代替手段は限られています。金を推す声もあり、中国も大量の金を購入していますが、米ドル建て資産の代替となるほどの流通量はありません。
ビットコインへの投資も一部の投資家に限られます。欧州や日本の市場もアメリカ市場に比べると規模が小さいため、すぐにドル離れが進む可能性は低く、現実的には緩やかにしか進まないでしょう。
アメリカ自身も、急速なドル離れを望んでいないと思われます。海外からのアメリカへの投資減少はドル安や金利上昇をもたらす可能性があるからです。急激なドル安や金利上昇が進めば、国内の資金調達コスト上昇や物価上昇につながります。アメリカも本音では緩やかな変化を望んでいるのではないでしょうか。
このドル離れが緩やかにしか進まないという見方は、私が以前から主張してきたことです。バイデン政権時代から「ドル離れ」や「米ドル崩壊」が取りざたされてきましたが、米ドルに代わる機能を持つ通貨や市場は現在存在しません。したがって、急激なペースでドル離れが進むとは考えにくいのです。
もちろん、これはドルが永続的に安泰だという意味ではありません。アメリカが様々な面で影響力を失いつつあるのは事実であり、米ドル保有の動機も徐々に弱まっています。これまでも中国が緩やかに米国債保有を減らしてきたように、ドル離れは緩やかなペースで進んでいくでしょう。
トランプ政権の政策によってアメリカ市場が不安定化したことで、このペースがやや加速する可能性はありますが、代替資産としてのユーロ、円、人民元にも脆弱性があるため、どのように考えてもドル離れが急速に進むことはないと思われます。ただ、この問題は、アメリカの同盟国であり世界最大の米国債保有国でもある日本にとって非常に重要です。
(本稿は『日本人だけが知らない世界経済の真実』を一部抜粋、構成したものです)
元機関投資家/ファンドマネージャー
資産運用会社等で20年以上、債券・為替・株式・デリバティブ等の資産運用関連業務に携わったのち独立。世界の経済ニュースを伝える「【世界経済情報】モハPチャンネル」を2021年からYouTubeで配信し始め、金融知識がなくてもサクッとわかりやすい解説が好評を博す。2025年5月現在、登録者数は22万人超、公開動画は1000本超、総視聴数7000万回を突破。「速さ・中立性・わかりやすさ」を信条に、世界各国のマクロ経済・金融政策をリアルタイムで分析。難解な指標を噛み砕く語り口と、元機関投資家ならではの視点が個人投資家・経営者・政策関係者から高く支持される。本書が初の著書となる。
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