トランプが関税を急いだ理由
なぜ自国経済に悪影響を及ぼす可能性のある政策を急いで実施したのでしょうか。一つの理由として、関税による税収増加が必要だったことが挙げられます。財政状況が厳しいアメリカでは、この税収なしには減税が実施できず、将来の減税のための余裕を作るために関税導入を急いだのかもしれません。
また、関税を段階的に導入すると悪材料が長期間続くため、一度に導入して強力な圧力をかけ、悪材料を早期に消化する狙いもあったかもしれません。さらに、関税導入による貿易不均衡の解消は支持者の要望でもあったことは間違いありません。しかし、今回のような金融市場の混乱まで想定していた可能性は低いでしょう。
米国債の急落などの金融市場混乱については、ベッセント財務長官も言及していますが、レバレッジのアンワインド(借入を使った投資の解消)が一因と考えられます。国債市場が混乱する前にスワップ市場で不安定な動きが見られました。スワップと国債を組み合わせたアセットスワップ取引も同様に、レバレッジをかけた取引のポジション解消が市場不安定化の要因とされています。
このポジション解消のきっかけとなったのは、ボラティリティの上昇やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の上昇など、危機時に上昇する指標の変動でした。トランプ政権としては、予想を超える不安定な状況になってしまったようです。2025年4月9日に急遽相互関税の90日間停止を決定したことからも、今回の金融市場の混乱を無視できないものだったと言えるでしょう。
その後、ベッセント財務長官は金融市場の混乱がレバレッジ解消によるものであり、特定の国による売り仕掛けではないと説明しました。対応策として国債バイバックなどの手段があると言及していますが、現時点ではまだその実施時期ではないとしています。バイバックとは財務省による国債買い戻し政策で、発行価格より安く取引されている国債を買い戻すことで償還費用を抑制できます。
資金の借り換えが必要になり、高利回りの債券発行で借り換えれば最終的には利払い増加につながりますが、一時的には負担軽減になります。さらに重要なのは、このバイバックの目的は投資家が売りたい、あるいは人気のない期間の国債を財務省が買い戻し、需要のある期間の国債を発行することでイールドカーブを整え、最もコスト効率の良い国債発行を実現することです。アメリカは過去にもバイバックを実施したことがあります。
このようにバイバックという手段があり、まだ実施時期ではないと表明したことが国債金利高騰への牽制となりました。今後はバイバック実施の可能性を示唆しながら米国債相場をコントロールしていくことになるかもしれません。ベッセント財務長官は10年国債を注視しながら政策を進めると述べており、こうした積極的なコントロールを行っていく可能性があります。