細かいセリフと
戦後をまだ引きずっている描写に注目
一方、嵩は人間の影が鬼になっているポスター案を描く。大根は「遊び心があっていい」と絶賛。
漫画の話になって手嶌治虫の『新寳島』を取り出し「これ読んだ? すごいよ」と嵩に薦める大根。演劇人も手嶌の出現に一目置いているようだ。実際、手塚治虫の『新寶島』は日本漫画の金字塔とされている。
嵩はとっくの昔に『新寶島』をチェックしていた。
この回でいいのは、セリフに手嶌漫画の感想「登場人物がね動いて見えるんだ」が入っていることだ。嵩は全然、手嶌の凄さを具体的な言葉にしない。ただ、圧倒され打ちのめされている表情をするのみ。それはそれでひとつの表現ではある。
ただ、説明くさくない程度のセリフがひとつくらいあってもいいだろうと思っていたところ、大根の一言が入って筆者は満足した。今週の脚本協力は山岡真介。
「あ 僕は何者なんでしょう」といういせのセリフも、これからの可能性を秘めている人物を表すセリフとしていいセリフだと思った。
細かいセリフもいいが、この回で最も重要なのは、戦後をまだ引きずっている描写だ。大根も嵩も戦争を経験し、戦争が終わったいま、自由な表現を行おうとしている。そのとき上演する演劇が、「姿かたちが変わらないので誰が鬼かわからない」という話なのだ。
嵩の「双子の島」と同じく、みんな同じ人間なのだということ。鬼なんていないという概念を物語で表現しようとしていることに注目したい。
そんな志高い嵩ではあるが、手嶌の才能にやられたと、また筆が止まってしまう。
「たっすいがーはいかん」
そこで出るのは、のぶの決めゼリフ。
のぶは雑誌に載った漫画募集の記事を見せて、応募するように勧める。
嵩「じゃあ のぶちゃん もし落ちたら励ましてね」
のぶ「わかった 次がんばりよ」
嵩「いま励ますなよ」
こんなとぼけた会話も楽しいし、のぶは夜遅くまで絵を描く嵩をやさしく見守ってくれる。
幸せな時間が流れている。
これまでひとりだった嵩。昔は千尋(中沢元紀)が励ましてくれていたが、その大事な弟を失って、ずっとひとり。ようやくこんなふうに見守ってもらえる人がそばにいて、さぞ励みになることだろう。
ドラマはすっかり糟糠の妻ものになってきた。
議員秘書として、妻として、誰かを支えるキャラ化しはじめたのぶ。彼女にとっての「なんのために生きるか」はこういうものだったのだろうか。
