各党の「分配重視」に不安しかない…
消費税率の引き下げ効果は期待できる?

 参院選で、与野党ともに家計への支援政策を大々的に打ち出した。背景には、足元の個人消費を取り巻く環境の厳しさがある。しかし、それらの政策は主に今ある経済のパイの分配に過ぎない。全体としてパイを増やす政策ではない。

 近年、わが国の名目賃金は緩やかに上昇した。ただ、給与増は主に夏と冬のボーナスが増えたことが寄与している。そのため、春と冬のボーナス時期に実質賃金(名目賃金から物価上昇率を差し引いた値)がプラスになるものの、安定的に賃金が物価上昇ペースを上回る状況にはなっていない。一般庶民の生活は苦しさを増している。

「家計のゆとりを生むために減税や給付を」といった主張で、与党も野党も有権者の支持を獲得しようとした。自民党は2万円の現金給付を主張したが、有権者の支持を増やすことはできなかった。一方、野党は主に、国民民主党や参政党が議席を伸ばした。

 国民民主党は、「手取りを増やす夏」と参院選のスローガンを打ち出した。その内容は、所得税の非課税枠(年収の壁)の引き上げ、30歳までに絞った所得税減税など。消費税は、実質賃金が持続的にプラスになるまで一律で5%に引き下げる公約を掲げた。

 参政党は、消費税の段階的な廃止や社会保険料の見直しを公約に掲げた。そして、現在46.2%程度の「国民負担率」を35%以内に引き下げると主張した。国民負担率とは、税と社会保障の負担の合計が、国民所得の何割であるかを示す。その他には、立憲民主党も食料品の消費税率を1年間に限りゼロにする減税策を提案した。

 こうした流れがある一方、減税の財源をいかに確保するか、具体的な方策を示した政党はほとんど見当たらなかった。消費税率を一時的に引き下げた後、どうするかも明示されていない。そもそも消費税を引き上げたのは、国民から広く社会保障関係費を負担してもらうことにあった(社会保障と税の一体改革)。

 消費税率を引き下げると、どれほどの効果が、どれほどの期間、期待できるのか。そうした議論は、ほとんどなされていない。

 もし減税に突き進むなら、そうした検証は必要なはずだ。これまでの消費税率導入や変更の経緯を振り返ると、比較的短期間で、消費増税に慣れる傾向が見られる。消費税率に慣れてしまうと、個人消費の水準は徐々に元に戻る可能性が高い。そうした議論がなされないまま、パイの分配重視の政策主張が相次いだことは不安に思える。